視点移動についてーまとめー

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視点移動についてーまとめー

ここ万字倶楽部では定例指摘である「視点移動」。 今までもかなり述べていますが、一度まとめます。 まずは原則 【視点移動とは?】 基本、物語は誰かの視点、視覚を通して進行します。 その人物は、主人公です。 視点移動とは、「主人公以外の人へ視点を移す」演出方法を指します。 【視点移動は原則禁止】 原則禁止です。しなくても書けます。特に小説は書けます。 とはいえ、視点移動したい人はかなり多いです。 そこらの小説も視点移動してんじゃん! って皆様思ってるはずです。 只、ある程度の読書量がある人から見ると、 「これ、視点を分けるほどでも無いよね?」って場合が往々にしてあります。 主人公一人で書き切った方が内容の濃い話になるので、一人の視点で書けなかった時点でストーリーが薄い印象を受けてしまいます。 この理由で、公募などで新人は視点移動しない方が良い、というアドバイスは至る所で散見されますし、私もその一派です。 主人公一人で書き切った方が「この人実力あるな!」って見えるって事ですね。 そうしたシナリオ強度の他にも、視点移動は読者への負担が大きくなる可能性が極めて高いです。 以下にデメリットを並べるので、それらを解消するよう努めてみて下さい。 【そもそも、なぜ、視点を動かしたいと思うのか?】 似たような問題で「心の声問題(人称問題)」があります。 万字倶楽部をやり始めて、これが同義だと確信しました。 「心の声を書きたいから、視点移動する」ですね。 故に、厳しい事を言います。 演出力でどうにかしてください。 心の声が書けないと物語が書けない! は、甘えです。無くても書けます。 って、審査員には思われているので、要注意してください。 【心の声は、主人公限定(作中一人)、もしくは一人称限定】 いつ頃から、この原則が無視されはじめたのか? 私、中学で習ったんですよね、これ。で、昔ってこの辺りめっちゃ厳しかったですよ。主人公以外の声入れんな! って。実際に選評で書かれましたし、至るところで目にしました。 たぶん、ラノベが盛り上がってきてからなんですよ。 (心の声) とかが出たしたのものここ二十年くらい。ラノベが流行り出してからだと思います。 それ以前は、三人称で心の声は禁止でした。 心の声を書きたいなら、原則一人称です。以前書きましたが、小説最大の武器は一人称なわけで、他の媒体には無い特権なんです。心行くまで心の声が書けるので、迷ったら一人称。 【え? でも三人称が公募で有利って聞いたよ】 嘘です。 そんな優位性はありません。錯覚です。というか、ちゃんと三人称を書いてる作品って、ここ数年読んでません。 三人称主人公の心の声だけOK、という謎の人称は山ほど見ました。なぜ、これが有利という迷信が生まれたのか知りませんが、映像化しやすいから、とかも関係ないです。迷信。 【そこまでして三人称を使いたい理由は?】 主人公が居ない場所を書きたいから。 三人称はこれが欲しくてやりますが、別になくても書けます。厳しい言い方をすると、主人公に魅力が無いから、他の小言で埋めないといけないだけです。 実質、上手い作家さんの三人称は、主人公視点から離れません。マジで。 他を書くと主体の主人公が薄れるので、主人公が魅力的ならむしろ視点移動はデメリットだったりします。 【主人公不在のシーンを書くメリット】 戦争とか歴史みたいなのを書くと、よく出てきます。 ここ万字倶楽部でも「ゲームオブスローズン」とかよく話題に出ます。 世界観を設定している以上、使いたいのは分かります。 この場合、「心の声少なめ」三人称をおススメします。本当は、全く無しがベスト。最低でも主人公だけ心の声許可。 でも、あまり受けない。 神視点(俯瞰的)になりやすく、「神視点使った時点で落とす」って審査員コメントを見た事がありますが、それくらい受けが悪いです。それにも理由があって、主人公が薄まるからです。神視点で主人公を魅力的に書き切るって、めっちゃ難易度高いので、実力がめちゃ入ります。 (本当は、これが三人称って意味なので、かつては実力がつくまで一人称を書いてろ! って風潮でした) それでもいいから書きたいんだ! って人は、応援します。私も視点を移して別の国とか書きたい派閥なので、色々と工夫を考えていますが……、正直、一人称の方が面白い……って毎回思います(笑) 【心の声は、原則、主人公だけ】 心の声の持ち主は、主人公になります。強制的になります。 そもそも、心の声を入れる理由は、読者を強制的に共感、没入させる為です。 読者を引き付けられない心の声なら、書かなくていいです。 せっかく没入した主人公を、いちいち変えられたら、読み辛いです。 メリットは、心の声が聴ける。でも、そんなのので、デメリットを背負ってまで心の声にする理由が不明です。 後これ、人によっては「楽しようとしてる」って思われる可能性があります。心の声とか視点移動って、他にやり方が沢山あるのに、それで済まそうとしている様に見えてしまい、感心しません。 【視点移動、心の声の罠】 視点移動した先で語れる出来事を、登場人物の誰がどこまで知っているのか整理がつかなくなる。 →人物達が矛盾した行動をとるようになる。 頻出。作者は世界そのものを作り出している神なので隅々まで理解していますが、実際に動くキャラクターがどこまで何を把握しているのかを管理するのは、めちゃ大変です。 人が増えれば増えるほど管理シートが増えるので良く分からなくなったりします。 分からなくなんてならないよ? って方は、逆に問題。絡みが浅いから整理が簡単なだけです。厳密には、サブプロットが作れてないから、簡単なだけです。 名前を付けた以上は、画面外の行動まで把握しないといけないのです。本当は。 で、(ここ重要★★)一度書いた台詞やシーンを、他キャラへ周知する為に行動とか会話、回想などしなければいけないので、読者は二度似たような場面を度々見る事になる(場面の重複)。 作者も二回書きたくないので、省略しがち。私の指摘で「描写不足」みたいなコメントが入る場合は、ほぼ、これを言っています。 ※ここのポイント、質疑あれば答えます。ちょい分かり辛いかもしれないので。 他にもありますが、改善策へ移ります。 重要な点は「心の声の所在」です。逆に、そこさえカバーできればやり方はあります。 【一人称で視点移動したい】 難易度高いのでおススメしないですが、方法はあります。 因みに、これを「W主人公」と言います。 一瞬の視点移動だけなら、まだ何とか主人公までにはならないですが、心の声を入れたら主人公です。 (ポイント★)主人公なので、目的達成がどちらにも必要です。どちらの目的も同じレベルにある必要があります。どちらの苦難も同じレベルにある必要があります。2人分のストーリーを作り、絶妙に交差させる必要があります。何をやっても2倍シンドイです。 因みに「あぶない刑事」みたいな物語をW主人公と思っている人がいますが、違います。 あの手の刑事物は、物語上の「主人公」ではなく「主役」です。その事件で悩む人が主人公です。心の声が入るって事は、事件の被害者が二人いて、その二人が交互にモノローグを始めるというカオス状態を指します。 まぁ、でもW主人公をやっているプロは多いので、無しじゃないです。なんなら流行りとさえ言えます。けど、難しいです。 なぜなら、これをやる絶対条件として、「飛び抜けた文章力」が必要です。例になる作品も挙げておきます。どちらもとんでもなく文章が上手いです。上手くないと、一人称の書き分けはかなり辛い。私は文章が上手くないので、敬遠してます(笑) 例)「殺戮にいたる病 我孫子武丸」 例)「夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦」←女性陣にはコチラがオススメ。 【一人称で視点移動したい、その2】 基本、章立ては必須です。ページ区切ったからとか一行あけたからとかじゃ駄目です。「※」で区切ったから、もキツイ。それこそ文章力が必要。 さっきの項の補足ですが、文章力が必須な理由は、一人当たりの分量が減るからです。加えて、視点が変わると読者の没入がリセットされます。ゼロからやり直して、短いページ数で即座に読者を導入する必要があります。それくらいの魅力的な文章が書けないとキツイ、って意味です。 逆に、挑戦し甲斐がある! って人も多いです。まさにプロ御用達って感じ。 基本、章として完全に分けて、今、誰がどこで何を話すのかを明確に地の文で説明して、それから台詞を始めてください。視点移動した先で「私」とか「俺」で始まらない事。これは絶対。読み手からすれば、「私」って誰やねんって感じで不快です。 (この辺りの気遣いができないなら、そもそも視点移動すべきではない) 【心の声3人以上は天才の領域】 心の声は、2人まで。3人以上は本当に止めた方が良いです。これは、相当なプロでも手出ししません。たぶん、去年読んだ書籍の中で、一冊もなかったはずです。 心の声3人以上は、天才だけが許される領域です。 私が知っている中で、これができたのは司馬遼太郎だけです。あれは化物。全員の心の声が入って来るとか異常。そこらの町娘まで入って来るとか異常。でも普通に読めるとかありえない。我、天才なり! って人は挑戦してみてください。 私はやり方も知りませんし、無謀チャレンジする暇もないのでやりません。 因みに、映画で一つ例がありました。 例)「LAコンフィデンシャル」 これが視点3人です。かなり高評価を得ましたが、ぶっちゃけ、2人にした方が評価は高かったと思います……。どう考えても尺が合ってなくて、勿体ない感が凄かった。 【視点移動したいなら、原則三人称】 ドラマはいっぱい視点移動するじゃん! そこのとこどーよ! お答えします。 私も、ドラマなら視点移動します。が、移動する人間の状況と、基本の視点、タイムスケジュールは考えています。やたら滅多にしません。理由が無いとしません。 何より、『心の声は絶対に入れません』。主人公になっちゃうので(結局これ。重要★★) ドラマなんでそもそも心の声は入らないんですが、だからこそ可能です。それでも、主人公から視点を離しておける時間なんて全体の1割もありません。主人公は基本出ずっぱり。 全体から見て、何分、主人公から視点を離したか? とか、計算して、間隙を縫うように視点移動します。しかも、移した以上は再導入が必要です。移す時と、戻す時、どちらにも必要です。 これがカメラなら、外観とか俯瞰とか景色とか移しておけばリセットできるので簡単ですが、小説はそれを文章でやるので大変です。 (重要★)視点を移動した先で、心の声を入れなければ、ある程度は耐えられます。 それこそ、ゲームオブスローズンとかは、かなり計算されています。メインの国に何分使って、他の国にどれだけ使うか? とか。あまり視点を長居すると主人公適正が生まれちゃうので、メインとその他は分数を分けています。もしくは、1話まるまる別の国(特集編!)としてしまうとか、色々な方法で主軸がブレないよう、主人公固定しないよう計算されています。 【心の声も一人くらい書きたいよ! って人用、三人称主人公だけ心の声OK】 ラノベに限らず、これが近年の主流ですね。 主人公だけは心の声OKだよ! でも三人称だから視点も動かすぜ! って奴。 ここにもルールがあります。まず何度も書きますが、「心の声は主人公だけ!」 これが守られていれば結構大丈夫です。 因みに、視点移動をする理由に以下の点が挙げられます。 ①総じて、シーン数が足りない状況だから書くスペースがあって心の声が書けているだけ、というのが散見されます。 もう一つのパターンが、②シーンとして一つ作るのが枚数的にシンドイので、視点移動と心の声で短縮してしまう、ってもの。 「①書く余裕があるから」は、論外。まずは一人で書き切れるようになる。視点移動はその次のステップです。視点移動でページ数稼ぎは絶対にしないこと。 後者②は分からんでもないです。説明が足りて無いけど、ワンシーン書くほどでもない……みたいな状況は良くありますね。でも、やるならやる、やらないならやらないでメリハリつけた方が大抵の場合は良いです。視点移動させるなら、ちゃんと意味のある1シーンを作りましょう。 【一人称と三人称を交互に行う】 これも、現代小説で度々見ます。特に刑事物とかミステリーで多い印象です。広義でのカットバック技法で、W主人公物です。 最終的には、この一人称の主人公と三人称の主人公が出会う形になります。 凝った感じに見えますが、散々使い回された挙句、映像化する時に大変なのでおススメはしてません。W主人公したい! って人はやってみても良いかもしれないです。勿論、人称の書き分けができる文章レベルは必要です。 と、こんなところです。 すっごく長くなりました(笑) まとめると、 「視点移動は、しっかり上手い文章を練って、分量もちゃんと使って、心の声をちゃんと操って、ページの枚数管理もして、矛盾発生をしていないか確認しつつ、サブプロットを構築して、主人公の軸を考えながら行う」事ができれば、そんなに難しくは無いです。 視点移動自体の難易度は、全行程の中では低い方です。 それより、前提条件の「上手い文章」の方が、クリア難易度がキツイと思います。 まぁ小説家ですし、文章頑張ろう! で、全て解決できる気もします(笑)
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