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4.half-eternity & submariner
青南から咲夜がうちまで送ってくれる間中、私は咲夜から離れたくなくて困った。四年も付き合ってきて、まだこんなに好きなんて。どれだけ近くにいてももっと求めてしまうなんて。
「咲夜、」
きっぱりとした横顔を見上げる。常に自分の進んでいく道を見つめるその横顔。
「うん、どうした?」
呼びかければ、いつでも目元を緩めて答えてくれる。
「何でもない。」
握っている手に力を込める。
「うん?」
ずっと一緒にいたいな。でも明日は日勤だし、咲夜も朝イチからカンファがあるしな。ああ、もううちに着いちゃった。
「麻、」
夏の夜空を映す瞳で咲夜が名前を呼んだ。
「なあに?」
「左手を見せて。」
「?」
私は訳がわからず、ともかく左手を突き出した。咲夜が笑う。
「手相を見るんじゃないんだから。こっち。」
そうして、薬指に冷たい感触が伝わり、薄暗い闇の中で、街灯の光を受けてキラキラ光る指輪がゆっくりとはめられた。
「婚約指輪。知り合いに作ってもらった。プラチナを台にしてもらったから、仕事中もつけられるよ。つけていて。」
私は信じられない思いで、左手をかざして見た。
「すごく綺麗。ハーフエタニティだね。これだったら、うん、仕事中もつけられるよ、十分。仕事以外ではダイヤの方を上にすればいいものね。これ咲夜が考えてくれたの?」
「麻の気持ちを俺にひきつけとく為にね。仕事中でも想ってもらえるように。」
「そんなの必要ないってわかってるでしょ。」
「どうかな、誰かさんは仕事となると"小児の紺野さん"になるからねえ。」
いたずらっぽく笑う咲夜は魅力的で、ますます離れがたくなった。
「ああ、離れたくないな。」
思わず言葉に出てしまった。
ふっ、と咲夜が微笑み、
「指輪を俺だと思って耐えて。」
そしてそっと指輪にキスをした。よし、わかった、明日から指輪をして仕事頑張ろう。
「ありがとう、咲夜。いつも咲夜と一緒な気持がするよ。もう寂しくない。」
「寂しい時なんてあったの?」
「もちろん、あるよ。会えない時。」
「もう少しだから。」
「うん、そうだね。咲夜、本当にありがとう。」
そう言って麻は手を小さく振ってマンションに消えて行った。ようやく深く息を吐いた。この2、3日はローラーコースターのようだった。ずっと考えていたアメリカ行きを口にした途端、麻が遠くなって、初めて失うかもしれないと恐れた。そして今夜のプロポーズ。多分受けてはもらえると思ってたけれど、直前の麻を思うとわからなくなった。今、一人になってやっと実感が湧いてきた。結婚するんだな、俺は。これからはもう一人じゃなくなるんだ。
嬉しくてもう何度指輪を眺めたことか。左指がキュッとしまるような感じにまだ慣れないけど。俺だと思って、って咲夜が言ってくれた。えへへ、また一つプレゼントもらっちゃったよ、とレモンイェローの小箱に話しかける。昨日の朝は泣いていたのに、伝説のマジックだね、今は笑みが止まらない。咲夜と結婚するなんて。夢を越えた夢みたいで、まだ信じられない。悔しくて悲しくて泣いていた、高校生の自分を思う。結婚するんだよ、大丈夫、あなたの涙は無駄じゃなかったよ。
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