3.青山2

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今夜は吉永がインチャージ業務をやってくれるから、私は久しぶりにスタッフとして一人一人をチェックして回る。 モニターがついている子どもがいない、本当に珍しいほどに落ち着いている深夜帯だ。私のサイドのラウンドを一通り終えて記録していると、照明を落としている廊下の先に、シルエットが浮かんだ。一目でわかってしまうシルエットが。やっぱりそうだよね。咲夜は必ず来る、会えなくなれば。私はそれに甘えているのかもしれない。嬉しいのに苦しい。そんなことを思いながら咲夜に向かって歩いて行った。 「オペ着着てる。緊急オペだったの?」 どうしても触れたくなってオペ着の胸元に手を当てる。たかが1日会えなかっただけで、もうこんなに恋しい。これが1年だなんて。 いつもの温かな手が私の手を包む。大きくて安心する手。 「電話に出て、気が狂いそうになるから。」 びっくりして顔を見上げる。薄闇の中に一段と暗く沈むそんな瞳を初めて見た。 「一人にならないで、高校の時みたいに。もう俺達はそれを乗り越えたはずだよ。」 いつだって聞きたいことの、もう一つ先を言ってくれる咲夜。私はこの人なしでどうやって生きて行けばいいんだろう?泣くな、麻。奥歯を噛みしめる。 「ごめんね、本当に。咲夜の決意を応援してる、心から。」 声が震えた。頑張れ、涙を見せるな。 「ただあなたの存在が大きすぎて、あなたがいなくなることが考えられなくて。ごめんね。」 いつものように抱きしめて欲しいけれど、ここは病棟だから。ただその手の温かさを心に深く感じる。 黙って聞いていた咲夜が静かに言った。 「昨日、本当に伝えたかったことが言えなかったんだ。だから今夜空けておいて。」 「うん。夜勤明けはオフだから大丈夫。」 「じゃあ、仕事の予定がわかったら連絡する。」 そう言って、ちょっと私の頬に触れてから咲夜は薄闇に消えて行った。緊急オペって言っても、当直じゃない彼がこんな遅くまで残っているはずがない。私に会う為だったんだ、きっと。私はやっぱり甘えている。咲夜が、横にいてくれることが、私なんかを選んでくれたことが、いまだに信じられないくせに。 ステーションに戻ると、吉永が 「水木先生にお会いになりました?」 と心配そうに聞き、2年目がうっとりしたような顔で立っていた。 「うん、会った。ありがとう。大丈夫。」 「水木先生、今夜当直ですか?」 「ううん、違うみたい。」 「そうなんですか。」 思慮深い吉永はそれ以上は追及してこない。まあ、私の腫れた顔を見れば察するか。2年目はまだ夢うつつのようだ。そうだね、咲夜は伝説だった。30歳に向かって気力がみなぎり、ますます魅力的になってきたと言われている。伝説って進化するんだっけ?頭が上手く働かない。
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