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「咲夜、麻さん。」
「母さん、父さん、まひるも。」
「結婚おめでとう。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「でも、あんた、今日も見事だった、ほれぼれしちゃったわ。お父さんを思い出してね。」
「ママ、それはちょっと無理が…お兄ちゃんは伝説なんだよ。」
私はお父さんをちらっと見た。目が合った。私達、伝説と結婚してしまいましたね。
「だけど、咲夜、麻さんに見とれるのもいい加減にしなさいよ。麻さんがチャペルに入ってきた時からもうずっとでしょ。いくら麻さんが綺麗だからって。見ててこっちが恥ずかしくなったわ。」
「うん、お兄ちゃん、あれは私でも照れちゃったよ。」
「仕方ないだろ。信じられなかったんだから、自分の幸運ぶりが。夢じゃないようにって祈ってたんだよ。」
ああ、だからそういう事を言われると。
「お兄ちゃん、ストレート過ぎるよ。聞いてて照れちゃう。麻さんだって真っ赤だよ。」
「まひる、そっとしておいてあげなさい。」
うう、お父さん、ありがとうございます。もしかして、同じような目に何度もお遭いに?
「ともかく二人とも無事で行って、無事で帰ってきてね。」
「はい。」
「うん。」
「お兄ちゃん、NYでがんば!」
「サンキュ。」
「咲夜、体に気をつけてな。麻さんを大切にするんだぞ。お前の夢に付き合ってくれるんだからな。」
「うん、わかってる。」
「ありがとうございます。」
「お姉ちゃんっ、」
「まり。」
「やっと終わったよ、新伝説の後始末。」
「ええっ、ほんとに?今までかかったの?」
「うん、チャペルで放心したように座ってる女の人達に、お水あげたりしてた。気分が悪くなった人もいて。」
「ああ、やっぱり。ごめんね。」
「大丈夫だよ。さすがに卒業式の時ほどじゃないしね、皆さん大人だから。」
「良かった。人数も少なかったんだね?」
「うん、20人くらいだったかな。」
「そう、まあ、咲夜にしては少ない方だね。さっき聞いたんだけど、病院のSNSのアップが既にされてて大騒ぎらしいのよ。」
「ええっ、ほんとに?ちょっと待っててね、“水木咲夜結婚”と。ああー、検索ページが何ページにもわたって埋め尽くされてる。画像もすごいことになってるよ。あ、これカッコいい。こっちも。ああ、どれも保存したい。ほんと、どうしてこんなに整ってるんだろうね。」
「まり、あんたと話してると、高校生の時を思い出すわ。」
「ああ、そうだね、懐かしいね。」
「麻、」
「あ、お父さん、お母さん。」
「佳いお式だったわ。麻すごく綺麗だった。ねえ、あなた。」
「う、うん。」
「お父さん、照れちゃってる。お母さんと私は、お父さんが泣き出さないか心配で心配で、ねえ。」
「そうよ、ここ一週間ふさいでたし。あなたにはまだまだ、まりもいるし、私はそれこそずーっといるのよ。」
「わかってるよ。」
「まあ、認めてあげるわ。咲夜さんが伝説級だっていうのは。」
「お母さん、ネット、今すごいんだよ。」
「何なに?」
二人でまりの携帯を覗きこんでいる。
「お父さん、」
「うん?」
「色々ありがとう。」
「いや。」
「私、お父さんとお母さんの娘で本当に良かった。感謝してる、心から。」
「うん、まあ…アメリカ、気を付けて行って来いよ。」
「うん。一年だからね、すぐに帰ってくるよ。あ、ちょっと待ってね。咲夜―っ、」
私は病院の同僚と話し込んでいる咲夜に手を振る。ああ、でも、何度見てもなんて素敵なんだろう。
咲夜が走ってきた。
「お父さん、お母さん、失礼しました。仕事の話をしていたもので。」
「うん、いいのよ。咲夜さん、麻をよろしくね。この子が一人で泣かないようにしてやって。」
「お母さん…」
「肝に命じます。必ず笑って戻ってきます。」
「うん、咲夜君頼んだよ。麻は私達夫婦の宝物なんだ。」
「お父さん?」
「あなた?」
「いや、まあ。」
照れてもごもご言い始めた父を、母がうっとり見つめる。
「宝物、お預かり致します。ありがとうございます。」
咲夜が頭を下げる。
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