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結局、問題はいつでも私だ。
この間もゴールドに言われた。
「お前さあ、いい加減自分に自信持てよ。」
「何よ、それ?」
「ナイトに関してだよ。見てると高校時代とあんま、変わんねえぞ。あいつに気後れしてるだろ。」
図星だった。さすが、高校時代ほぼ毎日喋っていた悪友だけある。
「何よ、あんただって事あるごとに言ってんじゃん。何でナイトがブルーなんだろうなあって。」
「で、あいつ一度だって言い淀んだことあったか、ないだろう?」
ー僕の言うことだけ信じていて。僕が追いかけたのは君だけだよ。大好きだよ。どんどん好きになる。ー
咲夜はいつだってストレートに想いを伝えてくれた。
「でも伝説のナイトが相手だと、どうして私を選んだんだろうって。やっぱり思っちゃうんだよ。みんながナイトに憧れれば憧れるほど、隣にいていいのかなって。」
「いいんだよ。ナイトがいつも言ってるじゃねえか。それにあいつ、もって3か月なのに、お前とは何年も一緒だろ?あいつをいい加減信じろ。じゃないと、お前、自分で自分達を潰すぞ。」
でもどうすればいいんだろう。臆病だった高校生の時の私がいつでも心の中で膝を抱えている。もう咲夜がいない人生なんて考えられないのに、咲夜なしでは自分がどうかなってしまうと恐れるのに、今ある幸せを安心して味わえない自分がいる。きっとそれは咲夜に伝わってしまう。だからいつでも会いに来てくれるのかもしれない。でもいつか疲弊させてしまうだろう。ああ、夜勤明けはろくなことを考えない。うちに帰って少し休もう。
少し、と思っていたはずなのに、携帯が鳴った時に外を見るともう夕方の光になっていて、びっくりした。
「もしもし。」
「ごめん、麻寝てた?」
「情けない、もう夕方なんだね?」
電話の向こうでいつもの温かい笑い声が聞こえてきた。ああ、私は本当にこの人が好きだなあ。
「うん、今ちょうど5時。それで今日は早めに上がれそうだから、7時半に青山一丁目の改札でどう?」
「もちろん、いいよ。今日は青山方面だね。」
「うん、久しぶりの246で。」
「ああ、いいよね、それ。」
無理しなくても自然に声が弾んだ。良かった、普通に喋れる。そう言えば、最初に咲夜と246を歩いた時と同じ季節だ。あの夏からもう4年が経ったなんて、出会ってからもうじき15年が経つなんて、嘘みたい。人生の半分、咲夜を想ってきたことになるんだな。そんなことを思いながら、ゆっくり支度をして、レモンイェローの小箱から仕上げのピアスを出して、家のドアを開ける。一歩踏み出そう。15年想ってきたうちの1年なんて。そう思うことにしよう。見上げた夕焼けがあまりに見事で息を飲む。一面が紅で夕雲がたなびいている。紅がうす紫に、やがて濃紺に変わるまで立ち尽くしていた。その中をものすごく大きなバターボールが堂々と上ってきた。今日は満月なんだ。私の大好きな。
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