虚実の女

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***** おや、このお写真は? あの方の妹御(いもうとご)姪御(めいご)ですか。 お二方(ふたかた)ともお若い時分にお会いしたことはありますけれど、その当時はさほど似てらっしゃらなかったのに、今はどちらがどちらか見分けが付きませんわ。 若い頃はそれほど似てなくても、年を取ると親族はやはり似るものですね。 どちらも今は北京(ペキン)にお住まいですか。 祖国の一人民として平穏に暮らしているのなら、それが一番幸せでしょうね。 滅びた王朝の王女として生きることがいかに悲惨かはあの方を見ても分かりますわ。 おや、もう一枚は……そうですか、あの方が現在まで生き延びた顔を予想したモンタージュですか。 今はそんな技術があるんですね。 どうして、私があの方の妹御や姪御の今の顔に似ている、そして何よりそのモンタージュにそっくりなのかですって? 私が今、名乗っているはずの人物は実際には戦時中の上海で行方不明、恐らくは川島芳子(かわしまよしこ)の配下として諜報活動に従事して消された一人である可能性が高いと。 あはは、ここに来るまで随分突き止めたもんですね。 でも、私は川島芳子ではありません。 彼女はもう何十年も前に先勝国になった中国で処刑にされたんですよ。 漢奸(かんかん)、祖国を裏切った人間としてね。 滅びた清朝の王女が復薜(ふくへき)を夢見て、育った日本に利用されて、最後は日本からも中国からも生かしておくべき者ではないと切り捨てられて葬り去られたんですよ。 そんな愚かなピエロは老残の姿で生き返ったりせず、往時の姿のまま死なせておく方が世の人にとっても万事都合が宜しいのではありませんか? (了)
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