虚実の女

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****** あの方はお宅では書斎でゆっくり本を読まれるのがお好きでした。 ええ、人前だけでなくお宅でも男物の服をお召しでした。 ――和服でも、支那(しな)服でも、洋服でも、女物の服は本人の実用より男に見せて賞玩してもらうための窮屈な装飾が多すぎる。 良くそう仰っていましたわ。 今は日本も、中国も、随分楽になった洋装が主ですけれど、それでも、女物の服は男物ほど実用的に出来てはいませんわ。 ええ、私のこの服も男物です。少し大きいですけれど、女物より不自由しません。こんな田舎で独り暮らしのお婆さんですから、自分の着たい物を着ています。
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