序章

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別室では適性検査とやらを受けた。簡単な質問ですからパソコンの画面に沿って答えていってください、職員の女はそれだけをコトブキに言って、書きかけの書類にまたペンを走らせた。 爪の先から髪の毛の一本一本に至るまで公務員然としているような初老の女で、顔に刻まれた皺のひとつひとつがどこか不調和で、所々剥げた赤い口紅が厭らしくてコトブキは好きになれそうになかった。こういう人間が今の日本を支えていて、政府やマスコミが与える偽の社会的希望を疑いもせずに生きている。 なぜ今の若者が平気で顔にまでタトゥーを入れたがるのか。資本主義というやつが脳や臓器を繰り返し移植したばかりでなく時には頭ごとすげ替えた人造人間の化物になっていて既に限界がきているということだ。この女は体よく腹が満たされているから顔を汚さずに済んでいる。
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