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大気が汚れている程夕陽は赤く美しい
「マヒル、もう行ってしまうの?」
酷く悲しそうなか細い声。
「もう鳥達も帰っているもの。」
ほんの少しだけ振り返って見せる。
「ほら、コウモリだって集まって来たわ。」
「……随分と早いのね。」
同時に空を見上げる。深い青と真っ赤の中間はどうしてだろうか、紫ではなく灰色っぽく染まっている。太陽に近づき過ぎた細い月はナイフの様に鋭い。
「今日は騒がしい日だったわ。貴女のお陰でやっと静かになるわね。」
「でも、誰も居ないと時々寂しくなるの。」
そう言ってヨルは目を伏せる。見た目以上に強い風に押された雲がジリジリと形を変えて流れて行く。
「すぐにアカツキに会えるわ。そうでしょう?」
「そうね。だけれども、私のせいでマヒルの明るさが失われるのはいつだって悲しいのよ。」
「私はヨルの静かな安心感に包まれる世界が羨ましいわ。」
「やっぱりアカツキの言う通りだわ。私達はいつだって互いに無い物ねだりをしてしまうのね。」
深い青の幕は随分と引き下ろされ、今や薄赤い縁取りを残すばかりになっている。
「そうね。私はいつだってヨルの静かさとアカツキの煌めきが羨ましいもの。」
「私はマヒルの明るさとアカツキのあたたかさが羨ましいわ。」
マヒルはそっと目を閉じる。
「そろそろ行くわ。私達、また会えるもの。」
ヨルはゆっくりと目を開く。
「そうね。また、会えるわね。」
「「それじゃあ、また後で。」」
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