明治26年の開校~目黒川女学館シリーズ

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27山田屋敷・外観 N「山田夏輝の家は、目黒村に代々続いた素封家であった」 28同・広間 中央に、れいか、その隣に夏輝、二人の前に大勢の村民が座っている。 その中に、川上渚の父である川上孫策がいる。 N「藤宮れいかは、神奈川県中央部の出身であり、家は鵠沼の漁師だといわれている。早くから自由民権思想に感化され、当時、結成されていた少女弁士のグループである制服向上委員会に加入、その強烈な個性とパフォーマンスで瞬く間に民権運動のスターとなった」 29佐渡島・空撮 N「その藤宮れいかを一躍有名にしたのは、明治23年の佐渡占拠事件であった。米騒動で揺れる佐渡へ単身乗り込んだれいかは、もはや事件の域を超えて、地方反乱にまで拡大させて、一時は佐渡島を占拠、明治政府の心胆を寒からしめた」 30山田屋敷・広間 N「以後、れいかは全国を遊説して回り、明治26年のこの時期は、かつて民権家であり、今は文学者となっていた北村透谷の紹介で、ここ山田夏輝の家に住み込み、学館舎に籍を置きつつ、反政府活動に従事していた」 孫策「藤宮さんよ。学館舎がヤソの女学校になるっていうのは本当かい?」 れいか「誰がそのような話を」 孫策「外国から先生が来たって話じゃないかね」 れいか「たしかにグラント先生がカナダよりいらっしゃいましたが、そのことで、キリスト教を学ぶミッション・スクールになるとは聞いておりません」 孫策「しかし、そのグラント先生ってのは、塾に聖書を持ち込んで、時々、ヤソの道のなされるそうではないか」 れいか「(思い当たることがあって動じる)心学は道話を持って、その精神を教えます。その道話には、江戸時代に外国から入ってきたもの、例えばイソップ物語などがあります。それらも元をたどれば聖書の逸話に行き当たります。それを持ってキリスト教式の教育といわれても困ります」 孫策「わしも娘がお世話になっている塾だから文句はいいたくないが、新しくできる女学校がヤソ絡みとなると、村人も黙ってはいないぞ」 村人から「そうだ、そうだ」の声が起こる。 困惑するれいか。 孫策「この問題は、ビール会社の水横取りの一件と合わせて取り組ませてもらうよ。藤宮さんにも異存はないね」 みやびの声「ご懸念なく」 後ろから村人たちに割って入るように、みやびが現れ、進んでいき、れいかの前で止まる。 そして、村人たちの方へ向いて、 みやび「学館舎を母体としてできる新しい女学校は、決してミッション・スクールになることはありません。石門心学は、儒教・仏教・神道のいずれからも強く影響を受けてはおりますが、心学そのものは宗教ではありません。所業即修行 の精神は校訓に盛り込みますが、それ以外の宗教的なものは一切、排除する所存です」 孫策「星野先生。アンタ、市内芝にする北村とかいう文士に弟子入りしとるそうだが、その文士がフレンド会とかいうヤソの信徒だそうじゃないですか。そのフレンド会とやらからも金が出るって話ですぜ」 再び村人から「そりゃ、本当かい?」の声が上がる。 みやび「女学校設立資金に関しては、後日、その会計詳細を公表します(と村人にお茶を出している咲苗を呼ぶ)咲苗ちゃん、ちょっと」 といって、れいかに向かって座る。 咲苗も来て、座る。 みやび「れいかちゃん。咲苗ちゃんを学館舎に入れて」 れいか、咲苗を見る。 みやび「この子は学びたがっているの」 れいか、答えない。 みやび「日本のこどもには、小学校へ通う権利があるわ。もし、使用者であるあなたが許さないのなら、私が目黒村役場に申し立てて指導させるから」 れいか「考えさせていただきます。それよりも早く北村先生の所へ行かれたらいかがです」 孫策が写る。 N「川上孫策は旧幕臣であった。戊辰戦争では榎本武揚の幕府艦隊に身を投じて函館まで転戦、戦後は目黒村に土着し自作農をしていた」
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