明治26年の開校~目黒川女学館シリーズ

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31現在の芝公園 N「日本の文学史上初めて 恋愛 の概念を持ち込み、自然主義・浪漫主義の旗手として、島崎藤村らに大きな影響を与えて、近代日本文学の確立に寄与した北村透谷の自宅は、現在の芝公園に在った」 32北村邸・客間 北村透谷、その妻・美那子、みやびの三人がいる。 透谷「そうですか。キリスト教に反感があるとなると、明治女学校からの教師の派遣は難しくなりますな」 みやび「明治女学校はいろいろな意味で先駆的な学校ですので、ぜひ先生に来ていただきたかったのですが」 透谷「まあ、いいでしょう。教師募集については、この北村も尽力させていただきます。同僚の島崎藤村君もぜひとも協力させていただきたいと申しておりましてな」 みやび「島崎先生が!心強いことでございます」 透谷「彼は私の文学論の最大の理解者ですからね」 みやび「先生の 人生の秘鑰は恋愛にあり に大変強い衝撃を受けられたとか」 美那子「私どもは大恋愛の末に一緒になったものですから」 透谷「(笑う)」 美那子「結婚のときは、私が出た横浜女学校でも評判が大層悪くて」 みやび「まあ、そうでしたの」 透谷「それだけの騒ぎで、コレと一緒になったのですが、夫婦になってみると、最初は天使のように思っていたのが、やがて俗物として迫ってくるのものですから参ったものです」 みやび「いやですわ。そんなことおっしゃって。ねえ、美那子様」 美那子「最近は古女房となった私の悪口ばかりで(笑う)」 三人、笑う。 みやび「ところで、先日お送りいただきました『平和』の先生の投稿文を読ませていただきましたが、世上、噂される清国との戦争には反対であるように思われましたが」 透谷「私の平和主義というものは、私がキリスト教徒であるという一点から来ておりますが、その立場から離れましても、今の政府の対清外交は危ういものを感じます」 みやび「『平和』にも書いておられましたが、暴をもって暴を制することについては疑問に思われると」 透谷「すなわち戦争は戦争を呼ぶということでございます。現実的に考えて、欧州の大局も変化している今日、東洋の一隅で起きる戦争といえども列強諸国が見過ごすでしょうか?あわよく来るべき日清戦争に勝利を収めたとしても、次はロシアが出てくる、あるいはアメリカが出てくる、といことになりはしませんでしょうか」 みやび「(聞いている)」 透谷「個人の間には復讐なり、国民と国民の間には戦争なり、このことを忘れた国家と国民には破局あるのみであります」 美那子「あなた、難しい話はそれまでになさって、例のお話を」 透谷「これは失礼しました」 と机から紙を一枚とってきて、 「先日、お話しいただいた女学校の校名ですが、学館舎の名前はのこしたいとのご希望でしたので」 みやび「石門心学の塾であったことは忘れたくないと考えております」 透谷「まずは、女性が通う学館ということで、下は女学館と致しました。ただ、それでは、先に開学しております虎ノ門の女学館と同じになってしまいますから、地名の目黒川からとって目黒川女学館とさせていただきました。穏やかな流れの目黒川と優しく暖かく咲く畔の桜のような女性になっていただきたいという願いを込めた校名です」 みやび「目黒川女学館!ありがとうございます」
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