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二人の間には、隠し事なんて一つもない。綺麗事だけじゃなく、後ろ暗い事であっても。時にグロテスクな感情さえも吐き出し、全てを認めあえる関係こそが至高。
そう、思っていたのに。
『ねえ、麗華。一緒に暮らすにあたって、一つだけ約束して。絶対に、勝手にわたしの部屋に入ったりしたらダメだよ』
今でも、あの忠告を思い出すと、胃がひしゃげるような感じがする。
「どうして美玲は、そんなに頑なに私を自分の部屋に入れてくれないの? 私は、もう何度もあなたを部屋にあげているのに」
先ほど飲み込んだブラック珈琲のねっとりとした苦さが今になって蘇る。
美玲は、答えない。
部屋の中に、重苦しい沈黙が広がっていく。沈黙がかきたてる焦燥から逃げるように、必死で言葉を押し出した。
「私の部屋だって、決して綺麗なわけではないよ。ガサツで、ズボラで、散らかしっぱなしなことだってしょっちゅう。だけど美玲になら、私、ダメなところを知られたって平気。むしろ知ってほしいと思うからっ」
「……麗華は、どうせ彼氏にも同じことを言っているんでしょ」
「なんでいま優くんが出てくるの!? 関係ないでしょ!」
イラだちながら、美玲がもたれているソファまで近づいていく。
「前から思ってたことだけど、美玲ってなんか、優くんに対してやたらとそっけなくない? そりゃ、才能ある美玲からしたら彼氏なんてくだらない存在だって思ってるのかもしれないけどっ」
見れば、その涼しげで整った顔には、意外なほどなんの表情も浮かんでいなかった。
美玲の薄い唇が、ゆっくりと開かれる。
「麗華はさ、わたしの得意な絵って、なんだと思う?」
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