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このリビングには、何の変哲もない木製のドアが二つある。
片方は、私の部屋に繋るドア。
もう片方は、美玲の部屋に繋がっている。
美玲の部屋に、私は未だに足を踏み入れたことがない。三ヶ月前の春、彼女とこのマンションに引っ越してきてから一度として。
「美玲は、理想の関係って、どんな関係だと思う?」
それまで熱心に画集に注がれていた美玲の視線が、ゆっくりと向けられる。
「麗華? 急に、どうしたの」
美玲は、大学の学科で知り合った同期だ。黒髪のショートカットがよく似合う、細面の美人。大学三年生になり、通うキャンパスが変わったタイミングで、私と彼女は実家が遠い者同士ルームシェアを始めた。
美玲は、口数が少ない方だ。
だけどその分、彼女は、絵で語っているんじゃないかと思う。
そんなことを思うぐらい、美玲は気がつけばいつも絵を描いている。なんの絵を描いているのか覗きこもうとすると隠してしまうけど、美玲のことだから、きっと素敵な絵を描いているに違いない。
去年の学芸祭で、彼女が大きなキャンバスに描いた雄大な海の絵には圧倒された。絵のことなんてよく分からない私ですら感動した。美玲の絵の実力は、同じ美術サークルに所属している先輩からもお墨付きだった。
『美玲にはさぁ、マジで才能あると思うよ。アイツの描く絵には、観る人の魂を揺さぶる力があると思う。あんな美人なのに彼氏もいたことないらしいし、ホントに真摯に絵に向き合ってるんだよな。経済的な事情で厳しかったのかもしんないけど、本当は、美大に行きたかったんじゃないかと思うよ』
美玲は、とにかく格好良いんだ。
周りに流されず、己の信念を貫き通すような生き方をしている。夢もやりたいことも見えていなくて、なんとなく毎日を生きている私や他の大学の友人たちのような凡人とは一線を画す存在。
そんな彼女と、学科の講義で知り合って、徐々に大学外でも遊ぶようになった。半年前、私から申し出たルームシェアを美玲が受け入れてくれた時には、舞い上がるほど嬉しかった。
これで、大好きな美玲にもっと近づけるんだって、信じていたから。
「私はね、全てを曝け出せあえる関係こそが、理想だと思うんだよ」
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