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「ねぇ。あなた、隠しごとしてるでしょ?」  休日の何気ない昼下がり。ひとときの休息を打ち破るように、妻は唐突(とうとつ)に突きつけてきた。  まさかこいつ、知ってるのか? 「ごめんね……見ちゃったんだ」  そう言いながら、申し訳なさそうに謝る妻。それを見て俺は確信した。確実に知っていやがる。こいつも殺さないと。 「奥さんと別れてくれなきゃ、あなたを殺して私も死ぬから」  まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。  職場の部下だった麻衣。彼女の仕事の悩み相談にのっているうちに、いつしか麻衣との関係は親密になっていた。  ちょっとした浮気心。断ち切ろうと思えばいつでも断ち切れる。どこか逃げ腰の俺とは対照的に、麻衣が注ぐ俺への愛情は日増しに熱を帯びていった。  麻衣が手にしたナイフが目に飛び込んできた瞬間、俺は反射的にナイフを奪い、気づけば凶器は麻衣の腹に。白いブラウスが、(またた)く間に真っ赤に染まる。 「うそだろ……」  死体が見つかれば俺の人生は破滅してしまう。とにかく死体を処分しないと。俺は完全に気が動転していた。  妻が帰ってくる前になんとかしなければ。だからといって、死体を家から外に運び出すのはリスクが大きすぎる。  そうだ、庭に埋めてしまおう――そう思いついた俺は自宅の庭に飛び出した。一心不乱に穴を掘り、麻衣の死体をそこに放り込んだ。  そして、彼女の上に土をかぶせていく。自分の罪を覆い隠すように。
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