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妻が仕事に出ている時間の出来事だ。なぜこいつはそれを知っているんだ?
「大変だったでしょ?」
妻の質問が核心を突く。そりゃ、穴を掘って死体を埋めるのは大変だったよ――とでも答えて欲しいのか?
俺に背を向けている妻に悟られないよう、そっと花瓶を手にとる。
「なぁ、すべて知ってるのか?」
「見ちゃったからね」
花瓶を持つ手に力を込める。
「まさか、あんなところに隠しておくなんてね――」
手にした凶器を持ち上げたその時だった。
「せっかく誕生日のサプライズに用意してくれたネックレスだったのに、先に見つけちゃってごめんね……人気のアイテムだったから、探すの大変だったでしょ?」
ふいに出た妻の言葉に、強張った全身の筋肉が一気に緩む。俺の手から殺意を失った花瓶が滑り落ちた。
「あなたの部屋を掃除してたとき、気になっていた小説が本棚にあったから、手に取ってみたの。そうしたら、本棚の奥にネックレスのケースが隠してあるのを見つけちゃって……」
絨毯の上に落ちた花瓶は、幸いにも割れずに済んだ。
慌てて笑顔を作りながら、「隠しごとしてるでしょ? なんて、いきなり聞いてくるもんだからビックリしちゃったよ。せっかく君を喜ばせようと隠してあったのに、見つけちゃったのかぁ。それじゃ仕方がない。サプライズは、おあずけだな」と、平静を装う。
「ごめんなさい」
妻は謝りながら、俺に飛びついてきた。
動揺からくる心臓の高鳴りを悟られないだろうか。妙に汗ばんだ肌に違和感を持たれないだろうか。
先に控える誕生日の演出を台無しにしてしまった罪悪感から解放されたのか、安心して俺に抱きつく妻。特に変わった様子もない。心配する必要はなさそうだ。
「サプライズができなくなった埋め合わせに、誕生日には美味しいご飯でも食べに行こう」
妻の髪を撫でながら、甘い声を出す。
「うん」普段と変わらない笑顔を見せた。
カーペットの上に転がる花瓶に気づくと、妻は腰をかがめそれを拾う。元あった場所に戻すと、愛おしそうに陶器をさすりながら妻は言う。
「ウチの庭って、もうひとり分くらい埋められるスペースあったよね?」
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