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しょげる柴犬
「で?」
ため息混じりに吐き出した俺の言葉にデカイ体がびくりと震えた。湿布を貼った肩を叩く。
「いたっ」
「何でこんなになるまで来なかったんだ?」
放課後になって野球部の顧問に連れられて顔を出したしゅんとしている黒田の制服を強引に脱がすと酷く色を変えた打撲痕。部活でできたものかと思えば午前中の体育の授業でできたという。
「そんなに痛くな、いたっ」
「どこが痛くないだバカたれ」
ちょっと触っただけで涙目になっている坊主頭の上でもう一度ため息を落とす。
「まあ骨は折れてなさそうだが、あんまり痛いなら病院行けよ」
コーラを飲みながら横目で見る。
「肩だから部活にも障るだろ」
「うっ」
黒田があからさまにうろたえる。まあこいつが来なかった理由なんて大体見当はついているが。
「負けたんだってな」
「・・・・・はい」
実家で飼っていた柴犬はよく悪戯がみつかると犬小屋の中で耳を垂れて丸まっていた。と、肩を落とす黒田を見ながら思う。
「すみません」
「謝られる覚えはないけどな」
ますます顔を伏せてしょげる黒田の頭をばしっと叩いた。本当にしょうがないやつ。
「そんなんで次の試合勝てんのか」
俺の言葉に勢いよく顔を上げる。徐々に顔が上気してくる。イラっとしたのでもう一回はたいた。
「勝ちます!」
「そーかよ」
「絶対に!」
しっぽを振るガタイのいい男を見ながら、確かに実家で飼っていた柴犬を一番可愛がっていたのは実は俺なんだよなあ、と苦笑しながら思った。
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