柴犬の告白

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柴犬の告白

「先生好きです」 「は?」  目の前に座るガタイのいい坊主頭を見る。鼻の頭に絆創膏を貼った間抜け面は体格の割にはまだ少し幼い。そんな男が生真面目な顔で俺を見ている。 「頭打ったか」 「打ってません。正常です。好きです」  ここはれっきとした由緒ある男子校。目の前の坊主頭は野球部員。俺はこの男子校の校医。告白される謂れはない。 「包帯巻き終わったからとっとと戻れ」  俺は包帯を巻いた肘を叩くと、治療は終わったとばかりに丸椅子を立った。けれど坊主頭は座ったまま。 「先生本気で好きです。付き合って下さい」  振り向いた俺を真っ直ぐに見つめる。  大学を卒業してすぐにこの学校に就職した。それから早数年、三十路に片足を突っ込む俺に対して、こいつはまだ16、7。 「ガキが百年はえーよ」  言えば坊主頭は悔しそうに目を伏せる。包帯やら消毒液を片付けようと背を向けると後ろから硬い声。 「どうしたら俺の告白にまじめに答えてくれますか」  振り向くと真剣な目。  ああ、めんどくせえなあ。 「本気で好きなんです」  めんどくせえ。  俺は頭をがしがしとかくと、置いてあったコーラを一気に流し込んだ。方の中を刺激する強い炭酸に少し涙が滲む。 「もしも、晴れたら。次の試合」  あーあ、何言ってんだか。 「次の試合で勝ってこい。話ぐらいは聞いてやる」  坊主頭が嬉しそうな顔を上げる。柴犬みたいだな、とぼんやり思う。 「はい!先生!」 「あん?」  柴犬がしっぽを振っているのが見えた。 「二年三組、黒田次郎です!次の試合、必ず勝ちます」  黒田は選手宣誓みたいに宣言すると礼儀正しく一礼して保健室を出て行った。 「あーあほんとにめんどくせ」  俺は上を向いたまま丸椅子でくるりと回った。
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