いっとくストレート!

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 澄んだ山の空気も、街中じゃ聞こえない小鳥のさえずりも、高く昇る夏の太陽をきらきらと反射している清流も――それを良いと感じるかは、そのときの気分次第、ということなのだろう。  バーベキュー場の賑わいに反してひとりピクニックシートの上で体育座りをしながら顔を膝に埋めている俺は、文化祭の打ち上げの存在は知っているのにそれに呼ばれないくらいの惨めさだったりする。  高校のクラスメイト男女ふたりずつ四人での日帰りバーベキュー旅行。  きょうのこの企画が決まったときは青春の神様の存在を信じたし、この旅行中に西野牧(にしのまき)への告白を成功させるべく、いいところを見せまくる計画をたてた。  つまるところ恋愛とは、減点方式ではなく加点式なのだ。欠点ばかり見えていたら、世の中、こんなカップルで溢れていないだろう。  だから、いいところを見せれば恋は成就する。  ――そういう理論だったのだが。  結局俺は、バーベキュー中、空回ってばかりいた。いいところを見せようとすればするほど失敗ばかり。みんなに随分迷惑をかけた。……まあ、こうなることは予想はできたけどさ。俺、演技とかそういうの、苦手だし。  はあ。  きょうのイベントはあと半分残っているが、いいところは見せられそうにない。 「青春の神様はどこいったんだよ……」 「――神様がどうしたのよ、佐々」  耳元で響くその声に俺は顔を上げる。 「…………急に、ビビるだろ」 「急にって……ずっといましたけど? ……それより、なんかひとりごと言ってたっぽいけど」 「……なんでもない」  ふうん、と納得していないように俺をのぞき込むのは、西之牧(なぎ)。  夏風に流れるショートカットの黒髪。  白のノースリーブにデニムのショートパンツというシンプルな格好ながら、それは陸上部の練習で焼けた彼女を健康的に映えさせていた。  ちなみに西之牧の将来の夢はチーター。理由、速いから。なんじゃそりゃって、感じだけど。 「――ならいいけどさ。あんた、なんでもやり過ぎるタイプなんだから気をつけなよ?」 「俺がいつなにをやり過ぎたんだよ?」 「……なにをっていうか……」 「――ふふ、さっきのはたしかに、ね」  川原から戻ってきたのは、一昔前で言うならば森ガールのような格好をしている御空(みそら)はるまき。  いつもふわふわとしている小動物天然少女系の彼女は、栗色のくせっ毛を揺らしている。身長は西之牧より少し高く、俺よりは低い。  なんでも、彼女はその名前のせいで中華料理が食べられないのだとか。どいつもそれなりに悩みってあるものだ。 「あ、ハルお疲れ。それ、ありがと」  と、西之牧。 「ううん。……でも洗うの大変だったよ。網とか全部丸焦げだったもん」 「炭に油撒いてファイヤーする大バカがいたからね。あたしの丸焦げができるところだったわ。これ以上焼けてどうすんだって話よ」 「わ! なぎちゃん、言い過ぎ」 「……悪かったって言ってるだろ。……御空、ごめん。あとでなんかおごる」 「え、いいよいいよ、誰にだって間違い、あるよ」 「じゃああたしにもジュースね、あ、やっぱ牛乳」 「バーベキュー場に牛乳なんてあるか! それに西之牧はなにもファローしてくれてない」 「はあ。小さい……器が小さいよ……佐々…………」  西之牧はわざとらしくその華奢な肩をすくめて首を横に振った。  ――こんなヤツのことを好きになって、いいところを見せたいだなんて思っているのだから、恋愛は好きになったほうの負け、という格言が骨身に染みる。  恋愛とは加点方式――告白するまでに、俺のいいところを見せなければならない。……でも、バカの俺のいいところって、なんだろうか。
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