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「なに、一人で飲んでんの?」 「違う。こちらは」  仕方なしに紹介しようと吉井君の方を見ると、すでにスツールから腰を上げている。 「俺はこれで……」 「いや、いいから座って」 「ああ、なんだ連れだったのか。いーよいーよ俺の方が後に来たんだから座ってよ」  頼んでいたナッツを口に放り入れながら黒崎が気軽に言う。俺と黒崎とに引き留められて、吉井君は困惑した様子でスツールに戻った。けれどその表情は硬い。初対面の人間と話すのは苦手だろう、時間をかけて開いた貝の口が閉じていくのが分かった。 「そんで、君は誰だい」 「あー……こちら吉井君。俺の部屋の隣に住んでる」 「あ、そうなんだ?そりゃお世話になってます」 「なんだそれ」 「だって俺もお前んちによく泊めてもらってるし。吉井君はさ、歳はいくつなの」 「……26です」 「え?」  聞き返されて怯む吉井君を横目に見ながら、俺が答えを返す。なんだかいたたまれなくて俺は店を出ることにする。 「俺たちはもう出るよ」 「なんでだよ付き合えよ。今日も俺はくたくたなんだって」 「愚痴なら今度聞いてやるからお前も今日はおとなしく帰れ。マスター」  手早く支払いを済ませると、俺と吉井君は店を出た。大通りに向かって歩いている間も隣で押し黙ったままの吉井君の表情を盗み見るけれど、何を考えているのかは分からない。 「ごめんな、なんか。強引に出ることにしちゃって」 「いえ」  それきり黙ってしまったので、大通りに出るまでの間気まずい沈黙が下りたままだった。こんなことならいつも通り部屋で飲んでいる方が、せめて居酒屋を出てすぐ帰ればよかったと思った。  大通りに出ると客待ちのタクシーが止まっていた。一番手前のタクシーに手をあげるとドアが開いたので、俺たちは無言のまま乗り込んだ。行先を告げようとしたところで誰かが続いて乗り込んできて、驚いて見ると黒崎だった。勝手にマンションの場所を告げると、タクシーは動き出してしまった。 「何やってんだよ」 「いいじゃん今日泊めてよ」 「ふざけるな。運転手さん、すいませんけど駅で止めてください」 「いやマンションまで行ってよ。お前もいい加減諦めろよ」  タクシーの運転手が迷惑そうにどっちだと尋ねるのに、黒崎がマンションでと答える。それ以上は言えなくなって仕方なく俺はシートに凭れた。 「家に来ても泊めないからな。勝手に帰れ」 「そう冷たいこと言うなよ。なあ、吉井君もそう思うだろ」  その後も黒崎は自分勝手に話し続けて、それに答えながらも俺は吉井君の様子が気になってずっと適当に相槌を打っていた。
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