八駅目

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 白い息がふうわりと立ち昇っていく。どれも同じようにはならないのがおもしろくて、何度も息を吐き出していた。 「お待たせ。ごめん遅くなった」  匠さんが少し息を切らして走ってくる。子供っぽい仕草を見られていたかもしれないと、駅舎の壁から背を離して俺はあたふたと匠さんに向き直った。 「全然!待ってないです!」 「本当か?」  匠さんがこっちに手を伸ばしてきて、俺は思わず目をぎゅっと瞑った。  鼻の頭に温かいものが触れる。  目を開けると匠さんが微笑っていた。手が離れていく。 「鼻が赤くなってる。すごく冷えてるじゃないか」  もう一度、遅くなってごめんと笑った匠さんの降りていく手を思わず掴んだ。温かいその手に触れた瞬間に、するりと言葉は滑り落ちた。 「好きです、匠さん。俺は、あなたが、好きです」  言おうと思っていた言葉は全部忘れてしまって、俺はただ好きだと繰り返した。ひょっとしたら引かれるかもしれないし、もう話してはもらえなくなるかもしれない。こんなところでこんな話をしているなんて迷惑でしかないのに。そう思うと自然、俯いてしまうけれど、どうしてもそれしか言えなかった。 「……寒いから、どこか中に入ろう」  温かな手が頭に置かれて、おそるおそる顔を上げる。匠さんは変わらない温かな笑顔で俺を見ていた。 「彼女とはきちんと話したよ」  ハンドルに肘を突いたまま匠さんが言った。俺は匠さんがくれたコーヒーの缶で手を温める。結局、どこへ行こうかと考えたけれど適当な場所が思いつかなくて、匠さんの車の中で話をすることにした。 「お互いに納得して、別々の人生を生きていくことにしたよ」 「別々……」 「そう。今はやっと、どうして別れることになったのか、分かった気がする。後悔も多いけどね。結局、泣かせてしまったし」  すぐ近くにある街灯が差す光の中で、匠さんはすっきりとした顔をしていた。俺の知らない二人の話があったのだと思うと、ちょっと寂しい。 「妊娠したことがあったんだ。彼女が」  エンジンを切った車の中はしんと静まっている。二人分の体温が窓を曇らせていた。 「結婚して何年目だったかな。二人ですごく喜んだけど、結局その子は生まれてこれなかった。それから二人の間がぎくしゃくしてしまって」  コーヒーの苦い味が舌に広がる。
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