最終駅

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 当日が遅番だった匠さんに合わせて、正と梅ちゃんに報告がてら時間をつぶして駅までやって来た。そのまま集合して深夜まで営業しているファミレスでご飯を食べることにしたのだが。 「もう少し早くわかってたらシフト変えてもらえたのに」 「別にファミレスでも嬉しいよ?」 「君は欲がないな」 「まさか。欲張りだよ俺は」 「今度もっとちゃんとしたところに連れていくから」  誕生日に一緒にいられるだけでも十分だし別に気にしなくてもいいのに、と思いつつもやってくれるのは嬉しいから断ったりしない。どんな口実だって、会えるなら嬉しい。 「ありがとう」 「ちゃんとその日は空けておいてくれよ」 「うんもちろん」  匠さんのためならどんな約束だって全部キャンセルしたっていい、なんて思う。 「だから」 「ん?」  思い出したように声を上げた匠さんを、どうやったら手をつなげるかなあと考えていた俺は見つめる。 「だから、こうやって約束をすればいいんだから」 「うん?」 「わざわざ話をするために終電に乗らなくていい。ちゃんと予定を空けておくから。男だって夜道は危ないんだからな?これでも心配してるんだ」  匠さんは真剣な顔で、心配してもらえるのはすごく嬉しいけれど、 「終電で会いに行くのが習慣になっちゃったしなあ」 「恋人は最終電車でやってくる、か」  匠さんがなんの気なしに呟く。立ち止まって俺は熱くなった頬に手を当てる。そして少し先にいる背中に向かってそうっと。 「……早く、恋人になりたいよ」  口に出すと胸が絞られるようにぎゅうとなった。  聞き取れなかったのか匠さんが振り返って首を傾げた。なんでもないと首を振ると、どうしてもつなぎたかったその手を笑って差し出してくれる。  少し前の自分には想像もつかなかった。あの電車に乗らなければ、そして財布を忘れたりしなければこんなふうに誰かを特別に思ったりしないままだった。  この恋は失くしたくない。 「匠さん!」  俺は笑っている匠さんに向かってありったけの勇気を振り絞ると、その大きな手をぎゅっと掴んだ。
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