日本へ

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「今すぐとは言わないけど市場調査を手伝って欲しいんだ」 ポールはそう言った。 「僕が今、狙っている国は、日本。」 「狙うって?何を狙ってるんだ?」 「ふふふ・・・最終的な狙いは極秘事項だ。今は明かせない。第一段階としては、日本人女性がネットにハマっていく心理調査。もちろんデータに対する報酬は支払う。3年でニューヨークの一等地にクリニックを出せると思うぜ。」 私はお金に目がくらんだ訳ではない。 率直に、調査内容に興味を感じたのである。 大好きなDIAPASON183Eを制作した日本人を深く知りたいと思ったのだ。 米国内科専門医(ABIM)の資格を取得した後、私は日本に渡り東京の某私立大医学部に籍を置き日本での医師国家資格を取得。 ポールの口利きで某米軍基地内の病院に籍を置きつつ、月に数回、北海道の僻地の病院でアルバイトを始めた。  そこは、とにかく医者が少ない地域であった。 東京の大学で親しくなった友人、M君がそこで悪戦苦闘している話を聞き、来れる時だけでいいから来てくれという彼の声に応え、通い始めたのだった。 どう見ても日本人には見えない私であるが、北海道の方々は意外に違和感も示さず、初対面の女性患者さんでも、怯えることなくいさぎよく肌をさらけ出すのには正直、こちらの方が戸惑った。 私は痩せこけて髭も髪も茫々の不気味な男である。 そんな男に気軽に親しみを示してくれる北海道の人々の大らかさを、私は心地よく感じている。 なぜ髭と髪を切らないのか、と言えば、実に情けない話であるが、父への郷愁である。 私の父はKGB離脱後、その素顔を隠すためであったか髪と髭を伸ばしていた。 自分には帰る故郷も頼る親もなく、父と同じような風貌をしているだけで、なぜか父を感じ安心するのだ。
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