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モロッコ
数か月の間、父と私はモロッコの安宿を転々として生活した。
母の安否さえ語らない無口になった父。
父は私に何も与えず
「この国の公用語はアラビア語だ。一か月でマスターするんだ。」
とだけ言った。
父は朝食を済ませると夜遅くまで宿に戻って来なかった。
私はその間に街に出た。
この国では、何をするともなく木陰に座ってぼんやりしている人がいくらでもいて、私は彼らに何気なく話しかけ、アラビア語を学んだ。
やがて父はモロッコの軍医として働くことになった。大きな家が与えられ、父は私のために、どこかからピアノを運び込ませた。
DIAPASON(ディアパソン)183Eだ。
このピアノが私と日本をつなぐ架け橋となった。
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