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兄
父はあっけなく亡くなった。
父は、ポールにはこのことを秘密にするように、とは言わなかった。
そんな余裕さえなく息を引き取ったのかもしれないが。
私はポールに電話し、今、父から聞いた話を伝えた。
遺体になってしまったけれど、最後にもう一度、父として、顔を拝んでやってくれとも言った。
「兄さん」
と、初めて呼びかけながら。
ポールはすぐ飛んで来た。
父が愛したモロッコの地、カサブランカ・オールド・ジューイッシュ墓地に父の亡き骸を葬った。
ポールは私に言った。
「お前が弟ではないかと、出会った時から疑っていた。確証はないが、父を父だとも思っていた。」
数日後、私はポールが長年生活して来たニューヨークのマンションへ招かれ、ポールの母に出会った。
衝撃が走った。
私の母と非常によく似た女性だった。
私は14歳で生き別れた実母を思い出し胸が熱くなった。
同時に、父が、ポールの母を心から愛していたから、私の母に強く惹かれた気持ちを自然に理解した。
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