DIAPASON(ディアパソン)183E

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DIAPASON(ディアパソン)183E

モロッコの住居を引き払う際、私はお気に入りのグランドピアノだけをポールの家に送ることにした。残りの物はすべて処分した。 私は、それまで借りて住んでいた小さなアパートを引き払い、ポールの大きな邸宅に同居することになった。 ポールと生活できることは、もちろん嬉しかったが、24時間、好きな時間に好きなだけDIAPASON183Eを思う存分に演奏できることは何より嬉しかった。 このピアノの音色は清涼な透明感と適度な芯のある硬さが絶妙で、自分の魂を表現するには、これしかないと思うほど、私には愛着のある一台だ。 ある夜、私がピアノを弾いている横に来てポールはこう言った。 「お前に頼みたいことがある。僕が今、手掛けている世界を動かすプロジェクトの手伝いをしてほしい。」 「ピアノに何か関係があるのか?」 「ピアノには関係ない。ピアノで人の心を揺さぶることができる、おまえの感性に関係があるんだ。」
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