15歳

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 小学生の時の失恋から、僕はどうにかしてこの想いと共存しなければならなかった。そして諦めきれない気持ちと、目の前で笑う誠二君との間で苦しんだあげく、行き着いたのは結婚したら諦めようという結論だった。いつか誠二くんはあの彼女と結婚する。そうしたら諦めよう、笑って祝福しよう。きっと僕ら家族は誠二君の結婚式を親族に近い席で見ることになる。そうして目の前に現実を突きつけられたらきっと諦められる。  そうやって猶予期間を作ったら、少し楽になった。そんなふうにしてなんとか心の安定を図っていたのだ。  けれどそれは崩れ去った。 「長く一緒にいても、どうしようもないこともあるんだ」  誠二君が目を伏せて笑う。それはまるで僕に対する死刑宣告のように聞こえた。 「なんだよそれ」 「何と言われてもな。いろいろあったんだ。大河には、関係のないことだよ」 「……ふざけんなよ」  僕の声が小さかったせいか、誠二君は不思議そうな顔をした。その表情になぜか僕は凶暴な気持ちを掻き立てられた。 「なんだそれ、関係ないとか」 「関係ないよ。これは俺と、彼女のことだから」 「そーですね、関係ねーよな。あんたと彼女のことなんて俺には全然関係ない」 「大河?」 「関係ないけど、でも俺は」  急に声を荒げた僕を誠二君が見つめる。突然、不条理な怒りをぶつけられたのに、誠二君は怒るでもなく、まだ僕を気遣うような顔をしていた。それがどうにも腹立たしくて、そしてやるせなくて。 「関係はないけど俺は、ずっとあんたのことが好きだった!」  この時の誠二君の顔を、今でもはっきりと覚えている。 「大河」 「いいよ別に気を使う必要なんてない。鈍いフリもしなくていい。そんなのいらないから、いいからさっさと」 「大河、」 「ざっくりとふっちゃってよ」  僕は投げやりに、そして最低なことに冗談みたいに自分の気持ちを濁した。誠二君はそんな僕を見ながら、複雑そうな顔をした。 「好きだと言ってくれたのは嬉しい。俺も大河のことが好きだよ。でも」 「俺の好きとは違うんだろ」 「……そうだね」  誠二君が悲しそうな顔をした。僕は俯いて、大きく息を吐いた。噂話を聞き流せるほどには大人になっていたけれど、面と向かって振られた相手を気遣うには子供過ぎたのだ。それは仕方のないことだと今でも思う。 「もう、いいから家庭教師。お互い気まずいし」 「……わかった。大河、」 「今まで助かった。母さんには俺からなんか適当に言っとくから。仕事が忙しいとかなんとか」 「じゃあ……帰るよ」  誠二君はしばらくそこにいたけれど、やがて部屋を出て行った。僕は顔を上げることはせずに、音でだけそれを聞いていた。 「あーあ!」  さっきと同じように僕はコタツに入ったまま倒れた。けれどもう、几帳面に教科書やノートを片付けてくれる心地よい音は聞こえない。 「終わった」  一人言はぽつりと部屋に滲んだ。 「終わっちゃったよ」  決定打を突きつけられて決着がついたはずなのに、当然すっきりなんてするはずがなかった。振られたからといって、はいそうですかと簡単に消してしまうには長く想い過ぎたのだ。だってもう十年が経つ。 「もう、終わりだ」  何度でも自分に言い聞かせる。  僕はこの時、長かった片思いに終止符を打ち、誠二君を好きでいるのをやめることに決めた。
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