17歳

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17歳

 チャイムが鳴ると、途端に教室の中は弛緩した。教壇に立つ教師がそんな僕らを見渡して、諦めたように今日はここまでと言った。 「大河、今日は飯どうすんの」 「外行く」 「はいよ」  僕は友人との短い会話の後、財布を持って教室を出ると人波を避けながら売店に向かった。売店は昼ごはんを買いに来た生徒で賑わっていて、さらに混雑している。僕はなんとかパンを2個だけ買うと、自動販売機でコーヒーを買って外に出た。中庭に出ると夏に近い強い日差しが肌を刺して、僕は目を細めた。 「大河遅い!」 「わりーわりー。売店で並んでたんだよ」  向こうの方で怒っている依莉(えり)に手を振って答えると、その隣に座った。 「大体、うちの売店狭いよな」 「そうそう、もっと大きくしてほしいよね」 「そうだな。弁当とか置いてほしい」  昼休みの中庭は、たくさんの生徒がランチをしている。僕らもその中に紛れて、昼ごはんを食べた。  勉強の甲斐あって、僕は家から一番近い高校に合格した。学力としてはそこそこの学校だが、生徒の自主性を重んじる自由な校風で割と人気がある。部活動に力を入れていて、僕は中学から続けていたバスケットボール部に入部して毎日のように汗を流した。2年に進級する前に、初めて合コンに行って、初めて彼女ができた。成績はぼちぼち。友達はまあまあ。それなりに楽しく高校生活を送っていた。 「ねえ、今度の土曜日に動物園いこーよ。真美が言ってたんだけどさ、今ゾウの子供が生まれてるんだって」 「それキリンじゃねえの」 「そうだっけ?まあどっちでもいいけどさ、ともかくいこーよ。真美と卓也くんと一緒に」 「無理。土曜は練習試合だし。卓也もいけねえよ」 「えーまたぁ?」  また今度な、と言えば彼女はまだ文句を言っていたけれど、僕は適当にやり過ごした。付き合いだしてから数ヶ月、最初は彼女の言い分に戸惑っていた僕もその頃になると受け流すのが当たり前になっていた。部活のせいで一緒に帰れないとか、友達と遊ぶよりもデートしたいとか、体を動かすより部屋でくつろぎたいとか、とにかく文句ばかりでいちいち相手をしているのが面倒だった。 「先週もそうだったじゃん」 「仕方ねえだろ。でも再来週は大丈夫」 「ほんと?やった!」  さっきまで不機嫌そうに口を尖らせていた依莉は一転、笑顔に変わる。笑うとちらと見える八重歯がかわいい。僕たちは昼休みいっぱいを再来週の計画に費やした。 「え?今週は大丈夫だって言ったじゃん!」 「仕方ねえだろ予定が入ったんだよ」 「予定って?」 「家の用事」 「それって大河も関係あるの?」 「あるから言ってんだろ」 「……そんな言い方しなくてもいいじゃん」 「ごめん。ともかく今度埋め合わせするから」  それにはなにも答えずに、依莉は口を尖らせたまま弁当に視線を落とした。 「お前の好きなとこ行くし」 「じゃあ、次の日曜日は?」 「あー、ごめん……」 「もういい」  それっきり依莉は何を言っても喋らなくなってしまった。こちらにも負い目があり悪いとは思いながらも、若干辟易しながら気まずい昼ごはんとなった。
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