22歳

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 眼を覚ますと、ベッドの上で丸くなっていた。布団を掛けていなかったせいで体の芯から冷えきっていて、細かい震えが止まらなかった。 「バイト……」  行かなければならないのは分かっているのに体が動かない。何かとても重いものを乗せられているように、自由がきかなかった。せめて連絡ぐらいしようとベッドから起き上がると、視界がぐらりと揺れて座り込んでしまう。テーブルの上に置かれた携帯電話を取るのさえ億劫だった。 「くるしい」  何か懐かしい夢を見た気がするのに思い出せない。甘いような苦いような夢。どうしようもなく苦しくて、僕は眼を閉じた。 「大河?」  再び眼を覚ました時にはベッドの中だった。心配そうな顔をした健人が僕を覗き込んでいる。考えてみても、自分でベッドに入った記憶はないから健人が運んでくれたのだろうと、ようやくそれだけ思った。 「バイト……」 「携帯に電話かかってたから、熱出してぶっ倒れてるって言っといた」 「サンキュ」  起き上がると少しめまいがした。背中を支えられて、暖かな体温に安心する。 「大丈夫かよ」 「大丈夫じゃない、みたい」 「昼になって来てみたらお前が床で寝てるからびっくりしたぞ。昨日の夜からじゃないよな?」 「朝起きたら体調が悪化してて。さすがにバイト無理そうだし電話しようと思ったんだけど、そのまま力尽きたっぽい」 「ごめん」  ベッドの傍に膝をついた健人が眉を下げて僕を見る。 「昨日帰らなきゃよかった。ほんとにひどそうだったのに」  悪かった、ともう一度言った健人に慌てる。健人が謝ることじゃない。 「俺がちゃんとしないからだし」 「それはもちろんそうだけどな。あったかくして寝ろって言っただろ?」 「健人」 「ん?」 「ごめん」  ありがとうと言おうとしたはずなのに、口からはするりと別の言葉が漏れた。いったい何に対して謝っているのか。 「なんで謝んの」 「昨日、あんな」 「あんなってどんな」 「あんな……」  言葉がまとまらない。頭の中を懸命に探るのに、捕まえそうになれば逃げていく。どうすればいい。 「そんな顔すんなって」  ぽん、と手を叩かれて僕は顔を上げた。気がつけば右手が掴んでいたパジャマ代わりのTシャツは、しわくちゃになっていた。 「追い詰めても仕方ないのは分かってんだけどな」 「ごめん」 「謝んなよ腹が立つから」  声が冷たく響く。そんな声は一度だって聞いたことがなくて、その温度の低さに指先から冷えていくような気がした。健人の目がひたと僕を捉える。 「別れよう」  体がびくりと震えた。 「もう無理だわ」 「健人」 「どうしてもお前の中で俺は一番にはなれないみたいだし。これ以上続けても無意味としか思えない」 「健人、」 「いけるかなーと思ってたんだけどな。やっぱ無理みたいだ」 「俺は、こっちで就職して」 「お前がこっちに残ろうが、地元に帰ろうが、全然別のところに行こうが関係ない。一晩じっくり考えて別れるって決めた。お前の体調の悪い時に言うべきじゃないだろうけど」 「いやだ、ふざけんな。勝手に決めるなよ」 「お前こそふざけるな!」
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