23歳

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「困ってはいないよ」 「嘘だ」 「本当だって」 「だって俺に、ただ隣に住んでただけの子供に急に好きだって言われても困るだろ」  そんなふうにはきっと見ていなかったから。けれど優しい誠二君は、僕を傷つけることをためらうだろうから。 「困らせるのはわかってる。だから距離を置いたし、諦めようと思った。でも他の誰かと付き合ってみたけどダメだったんだ。依莉のことも皐のこともっ……健人のことだって好きだったはずなのに、大事だったのにやっぱり誠二君とは違った。誠二君のことが、好きだった。今でも」  まくし立てて下を向く。早く終わりにしたくて一息に全部喋った。泣きそうになるのをこらえる。 「少しだけ、俺の話を聞いてくれるかな」  柔らかい声につられて、僕はようやくまっすぐに誠二君を見た。 「まず訂正しておくけど、大河は俺にとってただの近所の子供なんかじゃないよ。大河たち家族は俺にとっても家族みたいなものなんだ。母さんとこっちに来てからずっと」  それは我が家にとっても同じで、母も父も誠二君はもう一人の息子みたいなものだと言ってよく心配しているし、海は誠二君のことを優しい方のお兄ちゃんと言う。昔は僕だって誠二君のことがただただ大好きだった。 「特に大河は……さっきも言ったけど、一緒にいる時間がすごく多くて。俺は一人っ子だったから、友達が弟とケンカしてるのを見ていつも羨ましいと思ってた。だから大河が俺に懐いてくれて本当に嬉しかった。あの頃は父さんと母さんが離婚して、しかも引っ越したせいで友達とも離れ離れになって、不安だし寂しかった。大河には本当に救われてたんだ。弟ができたみたいで」  だから、と言ってから誠二君は少し言葉を切った。 「大河が俺を好きだと言ってくれたとき、驚いた。そんなふうに思われてるなんて思ってもみなかったから。そしてその想いに答えられずに大河を傷つけるのが悲しかった。……なあ知ってる?」  誠二君が僕に笑いかける。 「俺は昔っから、大河に泣かれるとどうしようもなくなるんだ。悲しくて、でもすごく愛おしくて、どうにかしてあげなきゃと思う。早く泣き止ませないといけないって。大河が大学に入る少し前に、赤飯を持ってきてくれたことがあったでしょ?大河が急に泣き出して、しかも走って行ってしまうから、俺には全然理由なんてわからなかったけど追いかけないとと思った。追いかけて泣き止ませないとって。でも階段まで追って行って、俺なんかが行ってどうなるんだろうって考えたら追いかけられなくなった。俺は一度大河を傷つけてるし、その時もまた俺のせいだったのかもしれないのに」  違う、と僕は首を振る。誠二君を好きでいることが辛くて逃げ出したあの日。 「大河は覚えてないかもしれないけど、その前にも外でばったり会ってて。あの頃にはもうあんまり顔をあわせることもなかったから、かなり久しぶりだったんじゃないかな。雪の降った日だった。前を歩いているのが大河だって気がついて、俺は声をかけた」
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