6歳

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6歳

 僕が幼稚園に通っていた頃に流行っていた特撮ヒーローは、トレインマンだった。トレインマンは名前の通り電車をモチーフにしていて、変身する時に「トレイン・トレイン」と叫ぶ。これがなぜか僕たち子供には大ウケで、幼稚園では先生もこれだけ言っておけばテッパンというぐらい流行っていた。  トレインマンを演じていたのは、当時まだ名前の売れていない若い俳優だった。のちに海外の映画にも出演を果たす日本を代表する名優となるトレインマンと誠二くんが似ていると言い出したのは母だ。当然のように僕もトレインマンにはまっていたから、それを見せておけば大人しくなると、母はもっぱら録画した番組を流しっぱなしにしていた。 「ほら、この笑った顔とか似てない?」 「え、どうかな」 「学校とかで言われない?」 「言われたことはないですよ」  その頃、僕を産んでから仕事を辞めていた母は店長の厚意で出産前に勤めていたのと同じ書店で働き始めていた。大概夕方には帰ってきていたけれどたまに遅くなる時があって、そんな時は誠二くんが幼稚園まで迎えに来てくれた。全くの他人が迎えに行くというのも変な話だが、当時はそれでまかり通っていた。今となってはのんきな時代だと思う。  誠二くんのお母さんは看護師で夜勤になることもしばしばだったから、そういう時は大体、誠二くんは僕ら家族と一緒に夕飯を食べた。シングルマザーだった誠二くんのお母さんを放っておけなかったのだろう。母はそういう人だ。ともかく、誠二くんはほとんど家族みたいに僕の家に出入りしていた。 「周りにトレインマンを見てるやつがいないからなあ」 「このちょっと頼りなさそうなところとかそっくりよね」 「そう?」  そうだよと母に追い討ちをかけられた誠二くんは「ひどいなあ」と困った顔で笑っていた。かっこいいというよりは、優しそうと形容されるタイプだったので、トレインマン役の俳優が垢抜けない感じになれば似ていたかもしれない。 「ねえ、大河もそう思わない?」  水を向けられて、僕はテレビの画面から顔を背けた。 「ぜんぜん、似てないよ」 「そーお?よく見てよ」 「似てない!」  トレインマンには親友がいて、彼はヒーローに次いでよく出てくる人物だった。子供たちの間では主人公派と親友派という派閥があり、その割合はイーブンで議論は白熱した。ちなみにその時はまだ知らないが、実はその親友というのが悪の総帥(レールゴンという)の右腕という設定で、彼が裏切った時、僕たち子供は本当に衝撃を受けたのだった。  ともあれ、僕はそのトレインマン派でも親友派でもなかった。 「あんたは『誠二くん』派だもんねえ」 「誠二くんの方がかっこいいもん」  僕は断然、誠二くん派だった。そしてそれを言うたびに、誠二くんは困ったように笑った。僕はその顔が大好きだった。
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