プロローグ

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プロローグ

 僕の人生は平凡だ。この世に生を受けて23年、自慢ではないが平穏無事な人生を歩んできた。それなりの波はあったけれど、それは僕の人生を180度変えてしまうようなものではなかったし、すべてを飲み込んで更地に帰すような劇的なものではなかった。頼りない小舟なりにどうにかこうにか乗り越えてきたところだ。  まずは僕の家族のことだけれど、父は七つの海をまたにかけて世界中を飛び回る探検家で、母はその探検家の父が大冒険の末に海の向こうで出会った小麦色の肌が美しいラテン系の踊り子……なんてことは当然なくて、中小企業に勤める十把一絡げのサラリーマンと、町の住人が来るだけのどこにでもある小さな本屋の店員だ。別に大恋愛の末の結婚というわけでもなく、父の上司に勧められたお見合いだったらしい。二つ下の妹も、実は血が繋がらないなんて劇的ドラマはなくて、一目見て兄妹だと分かるぐらいにそっくりだ。毎朝の洗面所争奪戦でなかなかの戦いを見せているが、比較的仲は良好だと思う。  公立の小中学校に行き、まあまあの高校に進学して、一流ではないけれどそれなりの大学に入学した。特に勉強ができるわけでもなく、かといって不良でもない僕は先生にとってなんの印象にも残らない生徒だっただろう。ちなみに小中高と皆勤だったことだけが僕の自慢だ。  多くはないけれど、バカな話で笑い合うぐらいの友達はいる。昔は自転車で町内を走り回った同級生とは、今では飲みに行ったりして上司の悪口で盛り上がっている。  そんなわけで、僕の人生は平凡だ。話をしても一時間も保たないだろうし、原稿用紙だって一枚程度で収まってしまうだろう。別に卑下しているわけではなくて、それは僕自身が特記事項のない平凡な人間だからに他ならない。多分、映画に出れば主人公の友達の友達なんてつまらない役どころだろう。けれど多くの人がそんなものなんじゃないかな。誰もが主人公になれるわけじゃない。  けれど、そんな僕にも主人公になれる物語がある。  僕の人生の物語だ。  これは誰にも譲れない僕だけの物語。どんなかっこいいヒーローも、めちゃくちゃ可愛い女の子も脇役になってしまう僕が主人公の物語だ。平々凡々ではあるし、観客もいないけれど間違いなく主役は僕だ。  つまらないかもしれないけれど、これから語るのはつまり、そんな僕の物語についてだ。
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