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「あれ。言ってなかったっけ」
祖母の口から偶然にも千佳姉の話を聞いた日から数日。たまたま家にやってきた彼女に問い詰めてみるも、返ってきたのはそんな言葉だった。
「聞いてないよ。すごいびっくりしたんだから」
「ごめん。1番に言ったつもりになってた」
「……千佳姉、そういうとこあるよね」
幼い頃から同じ時間を過ごしてきた僕の脳裏に、お姉さん面をしながらも肝心なところで抜けている千佳姉のアレコレが、ふわふわ浮かんでは消えていく。
忘れ物をするのも、朝寝坊をするのも、ちょっとした悪戯にはしゃぐのも全部、千佳姉のほうだった。
「結婚するとか、嘘みたいだ」
「ホントのことだもん」
「分かってるよ」
小ぶりの唇を尖らせ不貞腐れて見せる千佳姉は、幼い僕の記憶から飛び出してきたように、昔のままで。
なのに現実では“結婚”だなんて大人が使う言葉を言うものだから、なんだか、頭がちぐはぐしてしまう。
「隆くんも、早くいい人見つけなよ」
揶揄いと悪戯心、それから幸福という名の余裕をたっぷり乗せた千佳姉に、僕は小さく肩をすくめた。
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