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「本当に帰っちゃうの?」
鋭い陽光の下でまじまじと見た千佳姉は、本当に童話の中から飛び出してきたお姫様、みたいだった。
今日のために染め直していた淡い栗色の髪は日を受けて金に光り、白い小花のピアスがキラリと輝く。
「うん。ちょっと、急な仕事が入って」
漫画の中にいるみたいにキラキラと眩しい千佳姉に目を細め、僕はそう、彼女に嘘を吐いた。
今までで1番綺麗に着飾った彼女の、綺麗な眉が残念そうにハの字になり、「そう」と声が落ちる。
「ごめんね。せっかくの日なのに」
「ううん。忙しいのに来てくれてありがとう」
頑張ってねとこれまでと変わらない声音で送り出してくれる千佳姉に手を振って、踵を引く。
「千佳姉」
結婚式という非日常に浮かれる空気に後ろ髪をひかれた僕の声に、千佳姉がくるりと振り向く。
柔らかくアイラインが引かれたいつもより大きな瞳が、幼い子供みたいにきょとりと瞬いた。
「綺麗だよ」
本当に幼い頃からずっと、1番近くで見てきた。5つも違う千佳姉は、出会った時から変わらず“お姉ちゃん”のままだと、そう、思っていたのに。
いつものように八重歯を見せて笑い、子供みたいにピースサインを突き出す千佳姉に、胸の奥が痛む。
よりにもよって、こんな日に気が付くなんて。
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