2人が本棚に入れています
本棚に追加
結婚式場のすぐ近くに止まっていたタクシーを拾って、見慣れた道までの流れる景色に息を吐く。
一体いつから、いつの間に、どうして。浮かぶ疑問に明確な答えなんてものはなく、きっと、空の色が時間と共に変わっていくのと同じことだったんだ。
今さら気が付いても、どうしようもないけれど。
「……、ん?」
柔らかいシートに後頭部を預け、どうしたって落ち着くことの出来ない心を持て余していた僕の視界を、流れ星のような一筋の線がふと走り抜ける。
そうと気付いた時には、夕立に変わっていた。
夕暮れと呼ぶにはまだまだ早い、昼と夜の間に揺蕩う曖昧な時間の空を、積乱雲がゆったりと流れる。
「お客さん、いいタイミングでしたね」
「……、そうですね」
バラバラと大粒の雫が車の屋根を叩く音を聞きながら、僕はそれ以上なにも言えなかった。
昼でも夜でもなく、夕暮れでもない曖昧なこの時間の空が、あまりにも美しい色をしていたから。
「大丈夫。すぐ止みますよ」
ぐったりとシートに体を預け、ただ呆然と雨降る空を眺める僕に、運転手の気遣いが投げられる。
そうですね。とは、言わなかった。だってまだ、生まれたばかりの気持ちの置き場所が分からないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!