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落とし物
翌日、田山という30代の女が例の落とし物を受け取りに来た。
「すみません。黒い鞄届いてませんか? 昨日から無くしてしまったみたいで……」
「どうも、こんにちは。昨日届いてますよ」
「よかったです! 大金だったので」
手続きを終え、高峰が田山に鞄を渡した。
「最後に一つ、この落とし物を届けてくれた方へ謝礼を渡さなければならないのですが。届主は、謝礼を希望していまして」
「分かりました。謝礼をお支払いします」
2日後、志野 秀人という男が逮捕された。ニュースでは、43歳無職と報道された。
3日前例の鞄を届けた男性だ。
「にしても、高峰さん良く彼が犯人だと分かりましたね」
昼休憩中の佐倉が高峰に話しかけた
「書類を書いてもらったとき、自分の名前をやけに不安げに書いてましたからね。すぐに偽名だと分かりました。しかも職業欄には営業と書かれてた。そして帰り際に、昼休みの後また仕事があると言っていた。しかし、スーツを着ていませんでしたからね。やけに謝礼にこだわって、謝礼の割合を知っていたのも怪しいですし」
「『まさか届主が犯人とは思わなかった』志野はそう思わせたかったんですね……」
「だと思います。しかも落とし物をした人が現れると、それはもう解決したことになり、捜査はされないですからね」
志野は、銀行から出てきた田山から鞄をひったくり、交番へ届けた。
その後、志野は、『今度はお前を殺す、それが嫌なら、交番へ昨日の鞄を受け取り大人しく謝礼を支払え』と脅した
田山は簡単に犯罪を犯すような人間は、殺人もしかねないと判断し、それに従うことになった。
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