訪問者

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  「すみませーん」   「はいはい、どうしましたか」 昼休み直前の来訪者に対応したのは佐倉だった。 「この子、橋の下で泣いていて、どうやら迷子のようなんです」   その来訪者は、薄化粧の若い女性であった。そしてその子の手には、小さな女の子の手が握られていた。 3歳くらいの女の子。 泣くことを我慢しているようだが、涙が収まっていない。しゃくり上げる小さな声が聞こえる。  一時的にその女の子を交番で保護することにした。  独身の佐倉にはもちろん子供はいない。なれない子供の相手だったが、何とか基本的な情報は分かった。    馬場 美奈(みな)。3歳。○○幼稚園。 ここまでは何とか分かった。 他に聞こうとしても、しゃくり上げるように泣き出し「お母さん! お母さん!」と叫ぶ。  佐倉は彼女の外見が引っ掛かった。  怪我が多い。幼稚園で負ったものだろうか。 手を焼いている佐倉の元にまた来訪者が現れた。 「すみませーん」  「どうしましたか?」  「娘の姿が見当たらないのですが……」  そう神妙に語る人物は、30代後半くらいの、化粧の厚い女性だった  「もしかして、馬場美奈ちゃんのお母さんですか!?」  「そうです! もしかして、娘がこちらに?」  「はい、数時間前に女性に連れられてこちらに」    一応中で母親の証明となるものを見せてもらった。  そんな事をしなくても親子であることは一目瞭然だ。  だって、こんなにも顔が似ているのだから。  まさに瓜二つとはこのことである。  しかし、これは形式的に踏まなければならない手続きなためしょうがない。  母親であることはすぐに証明された。  馬場 里奈(さとな)。 36歳。専業主婦。  これだけの情報があれば十分だ。  「じゃあね美奈ちゃん。お母さんと会えてよかったね」  美奈はまだ泣き続けている。  せっかくお母さんに会えたのに。  「お母さんもよかったですね。誘拐の心配とかなさったでしょうに?」  「誘拐? いえ、ただの落とし物なので窃盗は疑いましたけどね。 誰かが娘を窃盗したんじゃないかって」
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