0人が本棚に入れています
本棚に追加
訪問者
「すみませーん」
「はいはい、どうしましたか」
昼休み直前の来訪者に対応したのは佐倉だった。
「この子、橋の下で泣いていて、どうやら迷子のようなんです」
その来訪者は、薄化粧の若い女性であった。そしてその子の手には、小さな女の子の手が握られていた。
3歳くらいの女の子。
泣くことを我慢しているようだが、涙が収まっていない。しゃくり上げる小さな声が聞こえる。
一時的にその女の子を交番で保護することにした。
独身の佐倉にはもちろん子供はいない。なれない子供の相手だったが、何とか基本的な情報は分かった。
馬場 美奈(みな)。3歳。○○幼稚園。
ここまでは何とか分かった。
他に聞こうとしても、しゃくり上げるように泣き出し「お母さん! お母さん!」と叫ぶ。
佐倉は彼女の外見が引っ掛かった。
怪我が多い。幼稚園で負ったものだろうか。
手を焼いている佐倉の元にまた来訪者が現れた。
「すみませーん」
「どうしましたか?」
「娘の姿が見当たらないのですが……」
そう神妙に語る人物は、30代後半くらいの、化粧の厚い女性だった
「もしかして、馬場美奈ちゃんのお母さんですか!?」
「そうです! もしかして、娘がこちらに?」
「はい、数時間前に女性に連れられてこちらに」
一応中で母親の証明となるものを見せてもらった。
そんな事をしなくても親子であることは一目瞭然だ。
だって、こんなにも顔が似ているのだから。
まさに瓜二つとはこのことである。
しかし、これは形式的に踏まなければならない手続きなためしょうがない。
母親であることはすぐに証明された。
馬場 里奈(さとな)。 36歳。専業主婦。
これだけの情報があれば十分だ。
「じゃあね美奈ちゃん。お母さんと会えてよかったね」
美奈はまだ泣き続けている。
せっかくお母さんに会えたのに。
「お母さんもよかったですね。誘拐の心配とかなさったでしょうに?」
「誘拐? いえ、ただの落とし物なので窃盗は疑いましたけどね。 誰かが娘を窃盗したんじゃないかって」
最初のコメントを投稿しよう!