再会

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ある日曜日、梢は予約していたCDを受け取ろうと、近所のCDショップへ出かける。 予約したCDは、梢がずっと応援しているインディーズバンドのものだった。実力はあるのに知名度も人気もイマイチで、梢は身近に自分以外のファンを見たことがなかった。 予約していたCDを無事に受け取り、帰ろうとすると、CDショップの注目アーティストの中に自分の買ったCDに置かれていることに気付く。 分かる人には分かるんだ。 嬉しい気持ちになって、そのコーナーをマジマジと見つめていると、 「あれ、芦屋さん?」 と、低い声で呼ばれた。 梢が驚いて振り返ると、そこにはCDショップのエプロンを身につけた、義隆が立っていた。 「かっ、叶くん?」 自分とは違う世界に住んでいると思っていた義隆が、気軽に声をかけてきて驚いた。きっと先に見つけたのが梢の方なら、声をかけずにその場を去っていただろう。 「もしかして、カリマ、興味あるの?」 梢がマジマジと見つめていた、注目アーティストのコーナーを指差して、少し興奮したように義隆が言った。 「興味というか、2年前ぐらいから好きで。今日も新しいアルバム買ったんだけど・・・」 「マジで!!俺もすごい好きなんだよ!!このコーナー、俺が作ったんだよ」 義隆の瞳はキラキラとしていて、ゼミの時に見る表情とは違っていた。そんな子どもみたいに無邪気にはしゃぐ義隆に、梢はドキっとしたのを今でもはっきり覚えている。 それから二人の距離が縮まるのに、あまり時間はかからなかった。 お互いに貴重な仲間を見つけたということを喜び、今まで誰かと語りたくても語れなかったバンドの魅力を、思う存分語れて嬉しかった。そして一緒にいる時間も、自然と増えていく。 また一緒にいるうちに、義隆と梢は音楽の趣味だけではなく、映画や本の好みも似ていることが分かった。気付けば、お互いの家を行き来して、CDはじめ、DVDや本の貸し借りをするようになっていた。 「ねぇ、最近叶くんとよく一緒にいるけど。付き合ってるの?」 同じゼミのグループだった紗子にそう聞かれたのは、三年の夏休みが終わり、秋が近づいてきた頃だった。 「いや、まさかそんな!だってタイプ全然違うし、釣り合わないよ」 「釣り合うとか関係ないでしょ。お互い好きならそれでいいんじゃない」 「いや、ただ、趣味が合うから一緒にいるだけで、好きとかそんなんじゃないよ」 紗子にそう言われて、梢は初めて義隆への想いに向き合うことになる。 私は叶くんのこと、好きなのかな。 確かに一緒にいると楽しいし、もっと一緒に居られたらと思う。 それは、好きってことなのかな。 その日を境に、梢はなんとなく義隆を意識するようになった。 梢よりもずっと大きな手、愛らしい子犬みたいな瞳、緩くパーマのかかった茶色の髪。全部が愛おしく思えたし、同時に自分のものにしたいという想いまで芽生えてきた。 自分の一体どこに、こんな気持ちが眠っていたのだろうと、驚いた。
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