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「もしかして、義隆と何かあったの?」
「梢先輩、ごめんなさい。私、昨日の夜、義隆先輩とずっと一緒にいました。二人で、私の家で」
「ちょっと待って。それってどういうこと?」
「昨日だけじゃないです。今までに何回かそういうことがありました。最初は飲み会で酔っ払って勢いで。私としては、ちゃんと梢先輩と別れて、自分の所に来てもらいたかったんです。影でコソコソそういうことするのは、嫌だったんです。だから宣戦布告までしたのに。でも義隆先輩は、梢先輩とは別れる気がないから、どっちか選ぶなら梢先輩だって言ってて。だったら私はこのままコソコソするしかないじゃないですか。私が義隆先輩と一緒にいれる方法はそれしかなくて。でも辛くて」
「それで、私に言いにきたの?」
「そうです。私がこんなに辛い思いしてるのに、梢先輩だけ何も知らないで義隆先輩に大事にされてるなんて、不公平じゃないですか」
美々はキリッとした綺麗な瞳で、梢を少し睨んだ。そんな風に睨まれて、梢の体は固まってしまった。美々が言っていることは、果たして本当なのだろうか。
あんなに梢のことを考えてくれて、結婚の話まで出してくれた義隆が、そんなことするなんてとても思えなかった。昨日だって、梢の将来を心配してくれて、お互いに一晩考えようって言って別れたばかりだったのに。
「ごめん。なんかやっぱり信じられない。義隆がそんなことするなんて、どうしても思えない」
「信じたくないのは分かります。でも梢先輩は、彼氏に浮気されてます。これは現実です」
そんなことを言われても、梢は美々の言葉が現実とは思えなかった。とにかく、義隆と話がしたい。そして義隆の口から真相を聞きたい。
「やっぱり、義隆から話を聞くまでは、なんか信じられない。それにもしかしたら、何か理由があるかもしれないし」
「分かりました、じゃあ今からここに、義隆先輩を呼びましょう。そしたら、現実だって分かりますよ」
美々は手早く携帯を取り出し、電話をし始めた。
「もしもし、今どこ?まだ家?今ね、梢先輩と一緒にいるんだ、三号館前のテラス。うん、分かった、待ってるね」
電話の相手は本当に義隆だろうか。春先に二人が話しているのを見た時は、先輩と後輩という感じで、美々は敬語で話していた。しかし今の電話は、まるで恋人と話すような口調だった。
これで本当に義隆がやって来たらどうしよう、梢は自分に降りかかった現実をようやく理解し始めて、急に寒気がした。手足がガタガタ震えだして、止まらない。落ち着きたいけど、落ち着けず、頭の中で義隆と過ごした日々がぐるぐるする。
いつから?どうして?本当にそうなの?何で気が付かなかったの?
義隆が来るまでの間、美々と梢はほとんど会話を交わすことはなく、張り詰めた空気の中、お互いに泣きそうな顔をしていた。
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