さよならの理由

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「ごめん、お待たせ」 十分程待ったところで、義隆がやって来た。本当に、美々の電話で義隆が来てしまった。その事実に梢は動揺が隠せない。 「二人ともどうしてこんな寒い所にいるんだよ。梢、震えてるじゃん。とりあえず暖かい所に行こう」 そう言って義隆は梢の手を取ろうとする。 「やだ!」 そんな義隆の手を反射的に払ってしまった。美々に触ったかもしれない手で触れて欲しくないと思ってしまったのだ。 「ごめん。ここでいいよ。こんな話、他の人に聞かれたくない」 梢がそう言うと、義隆は酷く傷ついたような顔をして、そのまま美々の隣に腰を下ろした。 こっちじゃなくて、そっちに座るんだ・・・。 梢達以外誰もいない冬の寒いテラスで、並んで座る義隆と美々を見ながら、暖かい涙が自分の頬を伝っていくのを感じた。 「どこまで言ったの?」 「ごめんなさい、勝手なことして。でも私、このままの関係はもう辛くて。大体概要は話した」 「そっか。悪いのは俺だからさ。ごめん」 梢は何も言えずに、ただ流れる涙を拭っていた。この二人のやり取りだけで、二人の関係が本当なんだと分かって、ショックだった。まさか義隆が自分を裏切るなんて夢にも思っていなかったので、言葉が何も出てこない。 「梢、本当にごめん。美々とはその、三ヶ月ぐらい前から、そういう関係になってしまって」 さり気なく義隆が美々のことを呼び捨てにする。その事実にすごく腹が立ち、涙声でやっと言葉が出た。 「どうして?」 「梢が就活で忙しくて、あんまり二人の時間がなかっただろ?それで、魔が差したというか。本当にごめん。言い訳はしない、俺が悪かった。二人とも傷つけて本当にごめん」 義隆は何度もごめんと繰り返して、申し訳なさそうに下を向く。この三ヶ月二人で過ごした時間、結婚の話をしてくれた時も、内定をお祝いした夜も、二人で小田原の物件を探したり、卒業旅行の相談をしていた時間すら、全て嘘だったというのだろうか。ずっと嘘をつきながら、義隆は笑っていたという事実に、眩暈がした。 「美々には失礼かもしれないけど、正直、最初は一回だけのつもりだった。俺が一番大事なのは梢だったし。でも美々と過ごして、美々にも惹かれている自分がいて。それで止められなくなって、梢とも別れたくなくて、こんな形で今日まで来てしまった。本当にごめん」 何も言うことの出来ない梢に対して、義隆はベラベラと話した。言い訳しないと言ったくせに、結局言い訳をしている。そんな義隆が、梢は悲しくて悲しくて仕方がなかった。 「これから私はどうすればいいの?義隆はどうしたいの?」 とりあえず美々と別れてもらって、そこからもう一回話をしよう。そう思って聞いた言葉だった。どうしたいの?と聞いたら、義隆からは梢とは別れたくないという言葉が当然出てくるものだと思っていた。 しかし義隆は、 「ごめん、梢。別れよう」 と、一番聞きたくない言葉を呟いた。梢は耳を疑った。 別れるのは私と?何で?松坂さんと別れるんじゃないの? 梢は頭が真っ白になった。瞳からは涙が溢れてくる。
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