対面

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対面

梢は空っぽのティーカップを見て、ふぅと溜息を付いた。 こんなに鮮明に、痛い痛い義隆との最後を思い出したのは久しぶりだった。蓋をしてきた想いが溢れ出しそうになり、梢は思わず涙ぐむ。 「梢ちゃん、大丈夫?ごめんね、辛かったこと、聞いちゃたよね?」 「ううん、良いの。私が雅さんに話したかっただけだから」 梢はそう言うと顔を上げて、カウンター越しに立っている雅に微笑んだ。 義隆とランチに来て以来、梢は一人で何度かこの店を訪れ、すっかり雅と打ち解けて友達になっていた。雅と梢は合うと義隆が言っていたが、それは間違っていなかったようだった。雅の絶妙に気が利く所とか、誰にでも明るく接する所は好感が持てた。 そして梢は雅と仲良くなって、今の義隆や義隆の彼女のことを少しでも聞き出そうと考えていたのだ。 「何か信じられないな、義隆が浮気とか。確かに義隆はイケメンだしモテるとは思うけど、付き合ってる子には誠実で大事にしてるイメージがある」 梢の長い昔話を聞いたあと、雅は意外そうに言った。 「基本的にはそうだよ。でもあの時は就職の件で気持ちがすれ違っちゃったのと、私がブスだったから、綺麗な子の方へいっちゃったみたい」 「でも梢ちゃんが昔太ってて、ダサかったっていうのも、びっくりしたな。このパーフェクトボディーは、努力の賜物なんだね」 「うん、そうなの。ジムでめちゃくちゃ走ってるし、食べ物にも気をつけてるもん」 時計を見ると気付いたら七時を回っていた。今日は休日で軽くお茶をしに来ただけのはずなのに、 「義隆とどうして別れたの?二人、今でもお似合いなのに」 と、雅に言われたものだから、ついつい昔話をしすぎてしまった。 店長も梢と雅が大切な話をしていると察してくれたらしく、「今日は梢ちゃんの話を聞く日!」と言って、雅には他の仕事を振らずに梢の前に留まらせてくれていた。 喉がカラカラになった梢は、雅が注いでくれたお冷を一気に飲み干す。 「それで梢ちゃんは、再会した今でも義隆のことが好き・・・ってわけね」 「え?!何言ってるの?!ちっ、ちがうってば!」 雅が突然変な事を言い出すものだから、梢は飲んでいた水を吹き出しそうになる。そんな慌てた様子を見て、雅はニヤニヤしながら悪戯っぽく続ける。 「今さら隠さなくてもいいってばぁ。分かるよ、梢ちゃん見てれば」 梢は顔を赤くして、何も言えずに下を向く。 「ああ、可愛いなぁ、梢ちゃんは。大丈夫だよ!私は梢ちゃんの味方だからね!あの女と義隆を別れさせちゃおう!」 「あの女って、ハーフ美女の・・・今の義隆の彼女?」 「そう!実を言うとね、私さ、あの子あんまり好きじゃなくてさ。何か気取ってて鼻につくというか・・・あ、これ、義隆には内緒ね?」 雅はそう言うと苦笑いを浮かべる。誰とでも仲良く出来そうな雅が苦手な相手なんて、義隆は一体どんな女の子と付き合っているのだろうか。色んな意味で心配になってくる。
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