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次の日曜日、雅に言われた通り、夕方六時に代々木のカフェへ向かった。クローズの看板がかかっている扉を少し躊躇いながら開けると、慌ただしく飾り付けをする雅がいた。
「あっ、梢ちゃんいらっしゃい!来たばかりの所悪いんだけど、ちょっとここ押さえてくれるかな?」
梢は言われるがまま、飾りの端っこを押さえる。それを雅が手際よくテープで止めた。そのまま雅を手伝っていると、店の奥から店長が出てきた。
「梢ちゃん、いらっしゃい。今日はわざわざありがとう。雅からだいたい話は聞いたよ。俺は梢ちゃんの味方だからね!」
そう言うと、ガッツポーズをして見せた。店長とは義隆と店に来た時に少し話しただけだったが、さすが雅の恋人なだけあって、懐の深い人のようで安心した。
「ありがとうございます、すごく心強いです」
梢もガッツポーズで返してみせる。雅と店長のカップルは、暖かくていい二人だなと思った。
それから雅の準備をせっせと手伝っていると、徐々に人が集まってきた。人見知りの梢は、知らない人ばかりで緊張してしまい、自然と言葉数が少なくなる。
「え?梢!?どうして梢がここにいるの?」
パーティーの開始時間が近付いてきた頃、義隆がやって来た。梢を見た義隆の表情は、明らかに曇っていた。隣には明るい茶髪の、お人形のように可愛らしい子が立っている。
これが義隆の今の彼女かと、ついついまじまじと見てしまう。強気な美人の美々とはだいぶタイプは違う、ふわっとした綺麗な子だった。
「雅さんに誘ってもらって。今日はお手伝いも兼ねて、来たんだ」
「そうなんだ。っていうか、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「あの後何度かここに食事に来てて。そこから意気投合して、すっかり仲良くなったよ」
「そっか、良かったね。梢と雅は合うと思ったんだ」
義隆は他にも何か言いたそうな顔をしていたが、彼女の前なので必死に平然を装っているようだった。梢もこの前のキスのことなんてまるでなかったかのように、普通に話すことを心掛けた。
しかしそんな二人を不機嫌そうに、義隆の隣いる彼女が見ていた。梢に対する殺気がすごい。確かにこの子はタダ者じゃないかもと思いながら、梢は彼女に話を振った。
「彼女?すごい可愛いね!ちゃんと紹介してよ」
「ああ、そうだね。えっと、この子は会社の同期でアリス。今、付き合ってる俺の彼女。アリス、この子は梢。大学の同級生で同じゼミだったんだ」
「梢さん、初めまして。大谷アリスです。名前から分かると思いますが、母がアメリカ人のハーフなんです。でもバリバリ日本育ちなので。よろしくお願いします」
「初めまして、芦屋梢です。義隆とは大学で同じゼミでした。今は化粧品会社で商品開発をしています。よろしくお願いします」
二人は簡単にお互いの自己紹介をした。アリスは話し始めると、スッと殺気を消して、すごく良い子そうに見えた。そしてビジュアル的にも、美男美女カップルですごくお似合いだった。この子に自分と同じような思いをさせようとしてるのかと考えると、梢は良心が痛んだ。
「さっきアリスと話してたね。どうだった?」
一連の流れを見ていたらしく、梢が一人になるとすぐに雅が飛んできた。
「どうって、ちょっと殺気を感じたような気がしたけど、普通に可愛くて良い子だったよ。義隆には勿体無いぐらい」
「最初は私もそう思ったんだよねー。でも後からボロが出ると思うから。楽しみにしてて」
雅は意味有り気にニコリと笑うと、忙しそうにせっせと店の奥に入っていった。
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