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今日のパーティーは雅が主催らしく、店長の友達や店の常連客など、様々な人が来ていた。料理や飾り付けは雅と数名の従業員でやっているらしく、雅は楽しみながらも忙しそうだった。
梢も雅を手伝おうと思ったが、雅にそんなの手伝わなくていいから、今日は楽しんでと言われてしまい、何となくフロアに戻る。しかし義隆はアリスと一緒にいて話しかけられる雰囲気ではなく、梢は必然的に一人になってしまった。
すると、
「こんばんは、あんまり見かけない顔だけど、一人なの?雅の友達とかかな?」
「めちゃくちゃ可愛いね!良かったら、俺たちと話さない?」
と、二人組の男性に声を掛けられた。ここで断ったらパーティーの雰囲気が悪くなると思い、梢は顔を強ばらせながらも笑顔を作る。
「あっ、はい・・・」
人見知りの梢にとって、初対面の男性が最も苦手なものであった。しかもあちらは二人組だ。どうすればいいのか分からず、小さく返事をしたものの、下を向いて、それ以上何も言えなかった。
「こんばんは!すみません、この子人見知りなんですよ」
梢が下を向いていると、頭の少し高い位置から義隆の声が聞こえてきた。
「あ、そうなの?ごめんね、怖がらせちゃったかな?」
「あ、いえ、大丈夫です」
この店の常連客はみんな良い人らしく、二人組は怖くないから大丈夫だよ、なんて冗談を言いながら義隆を交えて少し会話をしてくれた。
そんな様子を遠くの方でアリスが、不機嫌そうに眺めていた。
「おーい、ちょっとこっち来いよ」
しばらくすると二人組は他の常連客に呼ばれて、その場を去っていった。二人はじゃあまたねと、軽く挨拶をすると常連客の輪の中へ入って行ってしまった。そして義隆と梢は急に二人きりになる。
「あの、ありがとう」
「え?何が?」
「助けてくれて。困ってるの分かって来てくれたんでしょう?嬉しかった」
「折角綺麗になったんだから、もっと社交的になればいいのに。中身は昔と全然変わってないんだね。まぁ、そこが梢のいいところでもあるんだけどね」
義隆はそう言って優しく笑うと、梢の頭にポンと手を乗せた。義隆は昔から何かある度に、梢の頭の上に手を置いた。まるで大丈夫だと魔法をかけているようだと、梢はいつも思っていた。そして頭から伝わってくる義隆の温もりに、心臓がぎゅっと締め付けられるように痛くなる。
「わっ、私、トイレ行ってくるね」
胸の痛みに耐え切れず、梢は義隆を置いて店の奥にあるトイレへ行った。相変わらず、義隆が一体何を考えているのか、さっぱり分からなかった。
この店でランチをした時の口振りや態度からは、アリスを大切にしているから梢の気持ちには答えられないという感じだった。しかし今みたいに助けてくれたり、結婚式で再会した時だってあっちからライブに誘ってきたり、濃厚なキスをしたり、思わせぶりな態度を沢山してくる。その度に、梢の気持ちは義隆に振り回される。本当はこっちが振り回してやりたいのに、どうも上手くいかない。
とりあえず気持ちを落ち着かせて、トイレを出ると、目の前にアリスが立っていた。
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