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「あのさ、あんた、何なの?大学の友達だか何だか知らないけど、人の男、取ろうとしてるわけ?」
「え?」
そこには先ほど挨拶した時とは雰囲気がガラリと変わり、言葉遣いも乱暴で別人のようなアリスがいた。梢は突然のことで、呆気に取られて見ていた。
「彼女の私がいる前で、よくあんなにイチャイチャできるよね。頭おかしいの?」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃ・・・」
どうやらアリスは、先ほどの二人の様子を見て腹を立て、文句を言いに来たらしかった。
「義隆は私が知らない人に声掛けられて、人見知りだから困っているのが分かって、助けてくれただけで。あの、本当にそんなんじゃないです」
アリスの迫力があまりにもすごくて、梢は自分の声が震えているのが分かった。
「義隆、私と一緒にいるのに、あんたのことばっか気にしてて。それであんたが困ってるのが分かると、あっという間に私を置いてそっちに行っちゃったんだよ。何なの?そーゆの、本当にムカつく。そーやって弱いフリして、男に媚びるのがあんたの作戦なわけ?」
「いや、全然そんなつもりはなくて・・・」
「とにかく今後は、極力、義隆には近づかないでくれる?私、あんたみたいな女、大嫌いなの」
そう捨て台詞を吐いて、アリスは足早にその場を去って行った。
今のは一体何だったのだろう。自分は何を見たんだろう。
梢はしばらくその場に固まってしまった。とにかくアリスの殺気がすごくて、怖かった。義隆はなんて女と付き合っているのだろうと思った。雅がアリスのことをあんまり好きではないと言っていたのは、こういった一面を知っているからなのだろうか。
「あ、梢、ちょっとこっち来て」
トイレからフロアに戻ると、早々に義隆に話かけられる。少し離れた所は怖い顔で目を光らせているアリスがいて、頼むからこれ以上話しかけないで欲しいと思った。
「こちら、俺の飲み友達の常田茂晴さん」
「はじめまして。芦屋梢です」
「はじめまして、常田茂晴です。なるほど、確かにこんなに美人さんじゃ、一人にしとくの心配だな」
何が何だか分からずに梢がきょとんとしていると、義隆は心配そうに梢を見つめて続ける。
「梢、シゲさんは俺の友達で、めちゃくちゃ良い人だから、安心して?今日はシゲさんに一緒にいてもらって」
「え?」
「一人になったら、また変な男に声掛けられちゃうだろ?俺は今日は・・・一緒に居てやれないからさ」
義隆はそう言うと、不機嫌そうなアリスの方をチラリと見た。こんな風に彼女に気を使うなんて、やっぱり付き合っている相手には誠実ということだろうか。それに先程のアリスの様子を見る限り、別れ話などはされていないようだった。やっぱりこの前の情熱的なキスは、魔が差してしまっただけなのだろうか。
「じゃあ、シゲさん、頼んだよ!」
「任せて。お姫様はお守りします」
梢があれこれ考えて何も言えずにいると、義隆はあっという間に不機嫌そうなアリスの元へ戻って行った。
そんな義隆の背中を見つめながら、梢はまた胸がズキズキと痛むのを感じた。
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