対面

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「さて、お姫様は義隆に横恋慕なのかな?」 「え?!全然、そんなんじゃないです。ただの大学の友達で・・・」 「ふーん。まぁ、いいや、今はそういうことにしておこうか」 茂晴はニコッと優しく笑うと、それ以上義隆との関係について聞いてくることはなかった。きっと空気の読める、大人な人なのだろうと梢は思った。 それから茂晴は人見知りな梢が話しやすいように、時々質問を織り交ぜながらゆっくり会話をしてくれた。見た目は色黒で遊んでいそうな雰囲気があるのに、義隆の言う通り本当に良い人で、梢も徐々に慣れてスムーズに会話が出来るようになった。 常田茂晴、三十歳。銀行の営業。サーフィンと車が好き。フットサルのサークルにも入ってる。彼女は二年ぐらいいないらしい。 これが茂晴と話して、梢が得た彼の基本情報だった。歳上のしっかりした大人の男性。それが梢の印象だった。会話が上手なのは、営業で磨き上げられたスキルがあるだろうか。外でスポーツをするのが好きらしく、小麦色に肌が日焼けしているのも納得できる。 「あれ、なんで梢ちゃんとシゲさんが一緒にいるの?義隆は?」 しばらくして仕事が一段落した雅が、二人を見て声を掛けてきた。 「ん?今日は義隆からお姫様をお守りするように頼まれたんだよ。義隆はあっちのお姫様がご機嫌ナナメで、そちらの相手が忙しくてさ」 「あー、あちらのお姫様は若干、性格に難アリだからね」 「雅、そんなこと言っちゃだめだよ」 「シゲさんもそう思ってるくせに」 二人は顔を見合わせると、苦笑いをする。性格に難アリということは、やはり豹変したアリスを二人とも知っているのだろうか。 「あの・・・実は私、さっきトイレで、アリスさんに話し掛けられて」 「え?!じゃあ、梢ちゃん、早々にアリスにやられたの?」 雅は汚れたお皿を片付けながら、興味津々に聞いてくる。茂晴も興味があるらしく、身体を梢の方に向けて話を聞く体制を作った。 「やられたというか・・・義隆に近づくな、あんたみたいな女大嫌いって凄い剣幕で言われて・・・めちゃくちゃ怖かった」 「初対面の子にそれかー!さすがだな、アリス。私も最初めちゃくちゃ言われたなぁ」 「え?!雅さんも言われたことあるの?」 「あの子は義隆に少しでも近付いて来る女の子には、一通りそんな感じで牽制(けんせい)してるんだよ」 義隆はなんて凄い子と付き合ってるんだろうと改めて驚いてると、茂晴が優しい声で呟いた。 「きっとあの子は自分に自信が無いんだよ。義隆がいつか誰かに取られてしまうんじゃないかって、ビクビクしてる。あの子はあの子で苦しいんじゃないんかな」 「ふーん、優しいじゃん、シゲさん。あんな女の肩持つなんてさ」 「俺は全女の子に優しいけどね?」 「はいはい」 雅は流すように茂晴の話を聞いていたが、梢は少し胸が傷んだ。 アリスがあんな風に梢に悪態を付いてきたのは、義隆が好きで好きでしょうがないからだろう。そんなアリスを裏切って、義隆が梢と数回デートを重ねて濃厚なキスまで交わしていたと知ったら、発狂するに違いない。
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