対面

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「梢ちゃん、駅まで一緒に帰ろう」 パーティーがひと段落して帰ろうとした時に、茂晴に誘われた。雅は閉店までいて店長と帰るとのことだったし、義隆は当然アリスがいるので必然的に二人きりになる。正直少し抵抗があったが、ここで断るのも変だと思い、梢は茂晴と駅まで一緒に帰ることにした。 「夜道は危ないからね。最後までお姫様を守らないと」 茂晴はそう言うと、おもむろに自分の右手を梢の方に出てきた。手を繋いで帰ろうという事なのだろうか。梢がどうして良いか分からなくて戸惑っていると、 「冗談だってば。梢ちゃんは可愛いなぁ」 と、優しく笑いかけてくる。 「もう、からかわないで下さい!」 「あはは、ごめん、ごめん」 少し怒った梢を茂晴は優しく見つめ、それから駅までの道を並んで歩き始める。梢は義隆意外の男性と並んで歩くなんて久々だったので、少しふわふわした気分になった。 「あのさ」 それから雑談をしながら歩いていると、急に駅の近くで茂晴が立ち止まり、急にかしこまったような声を出した。 「・・・?なんですか?」 「梢ちゃん、俺と付き合ってみないかな?」 「え?」 あまりにも唐突だったので、梢も足を止めて、茂晴の顔をマジマジと見てしまった。 「急にごめんね。なんていうか・・・梢ちゃん、義隆のこと好きなんだろ?でもアイツにはアリスがいるから苦しんでる」 「それは・・・ちがっ」 「違わないだろ?正直、こんな可愛い子が辛い思いしてるの勿体ないって思ってさ。だったら、俺が幸せにしてあげたいなって」 「でも、私、まだよくシゲさんのこと知らないし・・・」 「それは俺も同じだよ。それに梢ちゃんが人見知りなのも知ってる。急に付き合うっていうのは難しいっていうのも分かってるよ。だからさ、こんなの変かもしれないけど、交際を前提に友人になってくれると、嬉しい」 「交際を前提に友人ですか?」 「そう。あっ、別に友達になったからといって、絶対付き合わなくちゃいけないとかじゃなくてさ。友達になってみて、嫌なら付き合わなくても全然いいんだ。とにかく焦らずに、ゆっくり梢ちゃんのペースで、まずは俺のことを知って欲しいし、俺も梢ちゃんを知りたい」 「つまりとりあえず友達ということですかね?」 「うん、ややこしいこと言ってごめん、とりあえず友達になって。でも俺が梢ちゃんをいいなって思ってることも頭に置いておいて欲しい」 茂晴の瞳があまりにも真剣で、断るなんて申し訳ないなと思った。それに、友達なら断る理由なんてないし、店長も雅も義隆も親しくしてるので、梢も友達になるのは自然なことだ。 「・・・じゃあ、友達なら」 「ありがとう、よろしくね。とりあえず、連絡先聞いていいかな?」 「はい、いいですよ」 二人はスマホを取り出して、連絡先を交換する。梢は、連絡先を交換する茂晴の手が少し震えているのに気づいた。茂晴は大人の余裕のある男性だから女の子を口説くのも慣れているのかと勝手に思っていたが、もしかしたら、すごく勇気を出して言ってくれたのかも知れない。 「とりあえず今度どこかへ遊びに行こうね。連絡するから」 茂晴はそう言うと、梢と反対側のホームへ消えて行った。恥ずかしそうに笑って手を振る茂晴の姿は、とても印象的だった。 シゲさん、きっとすごくいい人なんだろうな。 梢は電車に揺られながら、ぼんやりと茂晴とそれから義隆のことを考えていた。
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