彼の本音

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「あれ?今日はこの二人なの?」 並んでカウンターの席に座る二人を見て、雅は不思議そうな顔をした。 「うん、そう。梢ちゃんを本気で口説きたいから、雅は邪魔しないでね」 「あーはい、はい」 雅は冗談だと思ったらしく、いつものように流して対応していたが、梢は顔から火が出る程恥ずかしかった。こんなに堂々と口説くなんて宣言されたら、何を話して良いのか分からない。 「あれ?緊張してるの?」 「あ、はい、まぁ・・・多少は・・・」 パーティーの時はだいぶ打ち解けて話すことが出来たが、あれから日にちが経ってしまったので、緊張感が戻ってしまった。 「大丈夫だよ、まだ何もしないから」 「まだって何ですか?」 「さぁ、何だろうね?」 茂晴は少しおどけながら、梢の緊張を解いてくれた。そうやって冗談を交えながら、また梢が話しやすいように気を使ってくれる。義隆とは違った、大人の安定感がある人だと思った。 「梢ちゃんはあれから義隆と会ったの?」 「いえ、全然」 「そっか。横恋慕は上手く行きそう?」 「あはは、どうなんでしょうね?」 しばらくすると茂晴は酔いが回ったのか、梢が一番話したくないことの核心を突いてきた。それを愛想笑いしながら、ヒラリとかわそうとしたが、茂晴はそれを許してくれなかった。 「本当はもう、辛くなってるんでしょ?」 急に声のトーンを変えて、すこし距離を詰めてきた。そして華奢な梢の手に優しく指を絡めながら、ゆっくりと視線を合わせてくる。 「俺だったら辛い想いさせないよ?もうこっちに来ちゃえばいいのに」 「だから、私、まだよくシゲさんのこと知らないしっ・・・」 梢は慌てて手を振りほどくと、視線も思いっきり外した。顔がみるみると赤くなっていくのを感じる。 「梢ちゃんは一途なんだなぁ。全く、アリスも梢ちゃんも義隆の何がそんなにいいんだろ?」 茂晴はそう呟くと、今度は少し寂しそうにした。その表情の意味が、その時の梢には理解する事が出来なかった。しかし後から、この表情の意味を知ることになる。 「まぁ、俺は梢ちゃんのことを応援するとは言えないけどさ。義隆のことでも何でも、辛くなったら俺に頼ってよ。慰める位はできるからさ」 「ありがとうございます。でも・・・」 「でも?」 「どうしていつも、そんなに優しくしてくれるんですか?」 「それはさ、最初に言ったでしょ?君が可愛いからだよ、梢ちゃん」 そうやって笑った茂晴の瞳は、やっぱり何だか少し悲しそうに見えた。そして梢に優しくして口説いているようで、そこには気持ちがこもっていないことも何となく感じていた。 直接会って、何時間か話してみて分かった。 この人、多分、私のこと好きなんかじゃない。 好きなフリをしているだけだ。 好きな人を見つめる瞳は、もっともっと熱を帯びてて、余裕がない。梢は義隆に沢山愛された過去があるので、そのことをよく分かっていた。今の茂晴には優しさは感じるものの、梢に対する愛情や愛しさは全く感じられない。
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