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その次の日からだった。女子社員の数名が、アリスのことを避け始めたのだ。
原因は昨日、先輩の手伝いの申し出を断った事だった。あれは先輩に申し訳ないと思ったから断ったのに、やはり言い方が良くなかったようだった。
「ちょっと可愛いからって調子乗ってるよね」
「男にばかり良い顔しちゃって、マジでぶりっ子」
いつの間にか、そんな風に陰口を叩かれるようになった。元々ハーフというだけで目立つ存在なのに、先輩とのことがあって全てに拍車がかかり、アリスはあっという間に嫌われ者になった。
しかし実はそんなのは慣れっ子だった。
学生の頃からこの容姿のせいで、外人とか男好きとか散々あること無いこと言われてきた。
だから会社でこんな状態になっても、「またか」ぐらいにしか思っていなかった。
それに会社に味方は居なくても、プライベートでは分かってくれる人も味方もいた。だからアリスは平気な顔をして日々を過ごしていた。
でも何をしても平気な顔をしているアリスを、面白くないと思っている人がいることも事実だった。
「マジでムカつかない?大谷アリス。男に色目ばっか使ってさ」
「分かるー。女にはめちゃくちゃ性格わるいのにさ。この前なんて営業の田中さんの告白断ったらしいよ」
「うわっ、調子乗ってる!あんなイケメン断るなんて。でも本当はヤリまくりのビッチなんでしょ?」
ある日アリスがトイレの個室に入ってると、自分の悪口が聞こえてきた。話している二人は自分がここに居ることを分かっていない。そのまま二人がいなくなるまで個室にこもっていようと思っていたが、あまりにも内容が酷かったので黙っていられなかった。
「文句があるなら、直接言えば?」
アリスはトイレの扉を勢いよく開けると、噂話をしていた二人をジロっと睨んだ。
「げ、大谷アリス」
「私、別に色目なんて使ってないけど?あっちが勝手に来るだけ。それに田中さんの告白断ったのは、別に好きじゃなかったからだけど」
「何なの、少し可愛いからって。マジでムカつく」
「そちらこそ、私が可愛いからって妬むの辞めれば?どんどん惨めになるだけだと思うけど?」
こんなこと言っても火に油を注ぐだけなのは分かっていた。しかし影でコソコソされるのにウンザリしてしまって、思わず強めの言葉を投げつけてしまう。
「本当、ムカつく!これでもくらえ!」
アリスが怒っていると、1人が置いてあった掃除用のホースを握って、こちら側に向けてきた。しまったと思った時にはもう遅くて、アリスはあっという間に水をかけられてびしょ濡れになってしまう。
「アハハ、いいきみー!」
「可愛い顔が台無しね?」
二人はそう言うと濡れたアリスを置いて、急いで仕事に戻って行ってしまった。
「マジか・・・高校生かよ」
その古典的ないじめのやり方に、アリスはもはや笑えてきた。いい大人がこんなことするんだと、信じられない気持ちもあった。
これからどうやって奴らと戦って行こうか考えながら、濡れたままでドボドボと外に出る。そして女子ロッカーに向かう。ロッカーにはタオルと緊急用の予備のスーツが1枚置いてある。とりあえず着替えなければ。アリスは意外と冷静だった。冷静だった・・・はずだった。
「え?大谷さん?!どうしたの?それ!」
よりによってロッカーに向かう途中で、義隆に遭遇してしまった。正直アリスは、義隆にだけはこんな姿見せたくなかった。
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