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「私、好きな人ができたの!」
「ふーん。大丈夫なの?また傷付くだけなんじゃないの?」
「今度はいつもと違うもん。凄くかっこよくて優しい人なの」
「ふーん」
「でも・・・その人、元カノのことがまだ忘れられないみたいなんだよね」
「うわー、ほら、また傷つく。やめときなよ、そんな男」
義隆が他の人を想っていることは辛かったが、好きになれたことは純粋に嬉しかった。だから一番仲の良い幼なじみに報告と相談をした。幼なじみはアリスが恋愛で傷付いてきたのを沢山見ていたので、義隆とのことは反対していた。それでもアリスは、義隆のことを想い続けた。
「そんなに好きなら、まずは仲良くなりなよ。デートにでも誘えば?」
幼なじみは反対しながらも、そんな風にアドバイスしてくれる。
そしてアリスはアドバイス通り、義隆をデートに誘った。普通に誘っても断られると思ったので、この前助けてくれたお礼がしたいと言って、食事に行くことを提案した。義隆は最初「そんなのいいいから」と断ってきたが、アリスがどうしてもと聞かなかったので結局折れてくれて、会社の近くのイタリアンに行くことになった。
「女の子と食事なんて久々だから、緊張しちゃうな」
「どれくらいぶり?」
「うーん、三年ぶりぐらいかな?彼女と別れてから、女の子と遊んでないから」
席につくなり、義隆は恥ずかしそうに笑う。アリスはそんな義隆が目の前に座っているだけで、凄く嬉しくて顔がにやけてしまう。
元カノのことは確かに気になるが、彼女と義隆は確実にもう会っていない。会ってない彼女のことを気にするよりも、今前にいる義隆との関係を発展させることに集中したいと思った。
デートはアリスにとって楽しくて、幸せな時間だった。義隆も楽しんでくれているように思えた。だから食事が終わって店を出た後に、夜景を見て帰りたいと少しワガママを言ってみる。
「じゃあ、六本木の方とか行ってみる?あの辺綺麗なイメージ」
「うん、行ってみる」
顔を見合わせて笑うと、ゆっくりと歩き出す。初夏の生暖かい風が、二人をまるで祝福してくれているように優しく包んだ。その風に後押しされて、アリスは当たって砕けてみることにした。正確には、当たってすがり付くぐらいの気持ちだった。
「叶さんは、もう誰とも付き合う気ないの?」
キラキラと輝く六本木の夜景を眺めながら、思い切って聞いてみる。
「そんなことないよ。正直、いい加減に忘れたいんだよね、元カノのこと。だから、いい人がいたら付き合いたいって思ってる」
「・・・いい人は現れそう?」
「さぁ、どうだろうね?」
義隆はそう呟くと、苦笑いをする。アリスは義隆と過ごす時間が増えていくうちに、この苦笑いの意味が何となく分かってきた。触れられたくないこと、話したくないことを聞かれると、義隆はこんな風に笑うのだ。
「じゃあ、私は?」
「え?」
「私と付き合うってどうかな・・・?今はいいよ、元カノのことを忘れられなくても。元カノの代わりって思ったって良い。でも、いつか、きっといつか、私が彼女のこと忘れさせてあげる」
アリスは勇気を出して言葉を紡いだ後、自分の手が酷く震えているのが分かった。
生まれて初めて、自分から告白した瞬間だった。
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