例え代わりでも

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それから一度だけライブに行って、それで終わりにするつもりだった。久々に好きな音楽を一緒に聴いて、良い友達に戻る予定だった。 梢とはちゃんと友達に戻って。 自分の気持ちに区切りを付けて。 辛い時にずっと傍にいてくれたアリスのことを大切にして行きたいと思っていた。 しかし抜群に綺麗になった元カノはとても厄介で。 ただでさえ昔から趣味が合って一緒にいて楽しい相手なのに、そこに美しさという恐ろしいスパイスが加わってしまった。 義隆は梢の魅力に惹き込まれてしまい、あと一回、あと一回だけとズルズルと会っているうちに、どうしようもないくらい好きになってしまっていた。 アリスのことは大切だ。できるだけ悲しませたくない。 でも梢と一緒にいたい。梢を独り占めしたい。 そんな自分勝手な気持ちに、いつまでもいつまでも揺れていた。そんな時だった。 「私と別れたいと思ってるんでしょ?」 アリスの方からそんな言葉を向けられた。 驚いた義隆は目を大きく見開いて、アリスを見つめる。 「え?・・・どうし・・・」 「分かるよ、さすがに。この前会った梢さんでしょ、義隆がずっと忘れられなかった元カノ」 「・・・うん。ごめん」 「二年間、私なりに頑張ったつもりだったんだけどな。忘れさせられること、出来なかったんだね。結局ずっと私の片想いだったか・・・」 「それは違う。アリスが居てくれて助かったし、救われた。でも・・・梢と友達の結婚式で再会してそれで・・・」 「もういいよ。それ以上は聞きたくない」 アリスはそう言うと、大粒の涙を流した。アリスが泣いたのを見たのは、あの水をかけられた日以来だった。 あの時は、泣いている彼女を助けてあげたいと思っていたのに。今は自分がこんな風に泣かせてしまっている。その事実に義隆の胸は、締め付けられた。 「ねぇ、一つだけお願いがあるの。そのお願いを聞いてくれたら、別れてあげても良いよ」 アリスは悲しそうにニコッと笑うと、別れる条件を義隆に伝える。それを聞いた義隆は、表情を少し(ゆが)めた。 「簡単でしょ?」 「・・・分かった、少し考えさせて」 「どうして?考えるようなことじゃないと思うけど」 アリスはそう言ったが、義隆はそれから数日悩んだ。最後にどうしてあげるのが、アリスにとって一番良いのだろうか。 結局二年も自分のワガママに付き合わせただけで、アリスに何もしてあげられなかった。そんな申し訳なさで、義隆の胸はいっぱいになる。 義隆は意を決して、梢とそれから茂晴に連絡をした。 そして意図はよく分からないが、アリスが最後にやりたいことを叶えてあげることにした。
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