悪い女

3/7
前へ
/83ページ
次へ
「あるよ?うま味なら」 「え?」 「可愛い女の子と旅行できる、めちゃくちゃうま味あるじゃん?」 茂晴は冗談っぽく言うと、少し悲しそうに笑った。その表情は、梢がこの前から気になっていた表情だった。 「・・・私と義隆が付き合うの、あんまり良く思ってないですよね?」 「そりゃ、俺は君が好きだからね」 「嘘」 「え?」 「何で嘘つくんですか?私の事なんて本当は好きじゃないでしょ?」 「・・・参ったなぁ、俺の気持ち、信じて貰えない?」 「はい。でも私達を邪魔したいんだなっていうのは分かります」 梢がそう言うと茂晴は急に真面目な顔をして、持っていた煙草の火を消した。そして梢の腕をぐっと引き寄せて、自分の唇を梢の唇に強引に重ねた。梢は一瞬、何をされたのか分からなかった。それくらい、突然で隙をつかれたキスだった。 「ちょっ・・・何するんですか!離して」 梢は涙目になりながら、茂晴を思いっきり睨んで、掴まれた腕を振りほどく。 「俺の気持ち、信じてくれた?」 「・・・もう、分かりません!」 「駄目だよ、梢ちゃん。これくらいで動揺してたら悪い女にはなれないよ?」 「えっ?」 「アリスから義隆を取るんだろ?まぁ、梢ちゃんには無理かもな。あっちは正真正銘の悪い女だから」 「ちょ、それってどういう・・・」 茂晴は意味深に笑うと、せいぜい頑張りなと肩をポンと叩いて、車に戻ってしまった。 結局聞きたいことが何も聞けなくてモヤモヤしていると、喫煙所の少し先からこちらを見ている義隆と目が合った。 やば・・・、義隆まさか今の見てた? 梢が何て言い訳しようかあれこれ考えていると、黙って義隆がこちら側に近付いてくる。そして義隆は梢の前に立つと、周りをキョロキョロと見渡す。誰にも見られていないことを確認すると、梢の唇を自分の服の袖で軽く拭いた後、チュッとフレンチキスをした。驚いた顔で見上げてくる梢に、今度は少し長めのキスをする。 「消毒と上書き」 耳元でそう言うと、ほらいくぞと何事も無かったかのように低い声で言った。 茂晴にキスをされた時は驚くばかりでトキメキは無かったが、義隆のキスはドキドキして心臓がうるさいくらいに高鳴って、そして嬉しかった。ずっとこのまま唇を重ねていたいと思ってしまうほどだった。予想外に立て続けにされたキスで、自分の気持ちが痛いくらいに分かってしまう。 「簡単に奪われてるなよ、バカ。二度目だろ」 「ごめん・・・気を付ける」 「シゲさんとはもう二人きりになるな」 「・・・分かった」 車に戻りながら、そんな風に小さく会話を交わした。義隆は相当怒ってるようだったが、梢は不謹慎だか義隆がヤキモチを焼いてくれて嬉しいと思っていた。 一方、車に先に戻っていたアリスと茂晴は、ゆっくりとこちらに戻ってくる義隆と梢を眺めながら会話を交わしていた。 「ねぇ、最初から飛ばしすぎなんじゃない?」 「ん?何のこと?」 「あんまりやり過ぎると嫌われるよ」 どうやらアリスも茂晴がキスをしていたのを見ていたらしく、冷静に忠告していた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1048人が本棚に入れています
本棚に追加